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【Interview】香港BJJ事情を香港柔術 荒牧誠代表に訊く

2014.04.23

Aramaki Makoto

【写真】日本で経験できない出来事を経て、随分としっかりとした印象を与えるようになった荒牧誠。自らの道場の旗印の前で (C)MMAPLANET

初めて香港を訪れたのは2006年。2008年6月から香港に住むようになった荒牧誠は、2009年7月に香港柔術という自らの城を開いた。近くて、それほど近くない香港のブラジリアン柔術の現状とは?

現在発売中のFight&Life Vol42では、ブラジリアン柔術事情に加え、キックボクシング、そしてMMAなど香港格闘技界の現状を紹介した「Fight&Life 格闘紀行=香港編」が掲載されています。僅か徒歩5分内に格闘技ジムが4つも存在する香港島・中環から、九龍半島の柔術、ムエタイ、シュートボクシングとまだまだ未知の部分が多い香港格闘技界、ここでは荒牧誠がブラジリアン事情を尋ねたインタビューをお届けしたい。

──英語で指導をされているのですね、驚いてしまいました。

「ありがとうございます。こっちに来たときは全く話せなくて、1、2カ月だけ英語のクラスで通ったのですが、あとは全部独学です。中学生が使っているような文法ばかりで、柔術で使う単語を体で覚えた感じです」

──香港柔術をスタートさせたのはいつになりますか。

「香港に住むようになってから1年と1カ月後の2009年7月です。まぁ、色々とあったんですけど、自分一人でジムを開くまで1年少し掛かりました。それまでは他の道場でインストラクターをやったり、体育館を借りて指導したりしていました」

──色々と大変なこともあった?

「過ぎたことはあんまり覚えないようにしています(笑)。常人には耐えられなかったんじゃないかということはよく言われます。本当にあり得ないということが、何度もありました。実はこの場所も3月いっぱいで出ないといけなくて。工業ビルだから本当はやっちゃいけないということで……。まぁ、どこもやっているんですけど、通報されてしまって……。政府からチェックがあって、そうなると出ないといけなくなるんです……。『他もやっているだろう』って文句を言っても、『分かっている。でも、他は通報されていない』なんてことで。次の場所も決まっていて、ここから50メートルぐらい離れたところに移ります」

──やはり日本では考えられない事態が、いくらでも起こりうるわけですね。

「まぁ、僕も日本式で全部やっているので、合わない人は合わないと思います。『お金払っているのになぜ怒られる』とか、『なぜ、掃除をしないといけない?』という風潮は香港にはありますから」

──そのあたりは米国などと似ている感覚なのですね。

「ある時期から、僕もチャレンジだって思うようにして、自分の好きなようにやっています。郷に入っては郷に従えという言葉もありますが、譲れないところもあります。ダメならしょうがないって思いでやっています。後悔しないようにやろうって思って……スイマセン、偉そうに言ってしまって(苦笑)」

──いえいえ、一国一城の主ですから。それぐらいのことは言っても良いのではないですか(笑)。ところで今、練習生は何人ほど在籍しているのですか。

「65人ぐらいですね。この辺りはタイコクチョイという下町で、町工場が集中しているエリアなんです。平日は昼間から上半身裸のオヤジが歩いているようなところなので、家賃もそれほど高くはなくて、なんとかやっていけています。新界だとまだ安いところはありますけど、ここは九龍エリアでは一番安い地域ですね。ただ、商業ビルになると、借りることはできないです。空手やダンス・スタジオなども、暗黙の了解で工業ビルを使っているんです」

──ちなみに月謝は?

「日本円だと7800円から13000円ぐらいの間です。香港の人にとっては1万円から1万7800円ぐらいの感覚だと思います。まぁ、メガジムをやろうとしないと道場ではお金持ちにはなれないですね(笑)」

──香港の柔術の普及具合はどのような感じで推移しているのですか。

「きっと10年ぐらい変わっていないと思います。ここ数年でEPICやGRIPができたので若干増えた感はありますが、やはり組技への抵抗は強いです。あと、スポーツ自体の普及度が低いです。道場でも前転や後転から教えています。ほんと、驚かれると思うんですが、出来ない人が多いです。体育もしっかりとやっていない感じです。柔道をやっているやっていないでなく、その存在を知らない場合も少なくないです。

だからMMAや柔術に興味を持っているのは白人系の住民が多いです。香港島の方なんて如実にそうですよね。ローカルの人でも、金融関係に務めている英語がペラペラの人たちですね。月に2,3万払っても問題ないですし、そういう人はMMAも好きだから、マカオまでUFCを見に行っていると思います。九龍サイドとはいえ、僕のところで貰っている月謝の額でも、ローカルの人は高額に感じると思います。

香港は大卒でも平均月収が20万円に届かない。肉体労働者は13万円ほど、マクドナルドの時給は300円ほどだし、貧富の差は大きいです。広めたいですけど、柔術は一般の人には知られていないですのが現状ですね」

──柔術大会はどれぐらいの頻度で行われているのでしょうか。

「カオルーン柔術の方々が中心になって、年に1度か2度……ですかね。コパ・デ・ホンコンという大会を開いてくださっています。連盟も形だけのモノを僕とトーマス・ファンさんがやっていますが、体育館をブッキングするために存在するようなものです。登録制度なども浸透していないですし、連盟を作って競技を普及させようという気持ちは持っていないですよね。トーナメントを開いても、利益が出るわけではないので……」

──試合を欲する生徒さんもいるのではないですか。

「そうですね。今日みたいに日曜日までスパーリングに来る子たちは試合に出たがっています。台湾、フィリピン、タイまで足を運んでトーナメントに出ています。グアムに行く人間もいますね。僕もレフェリーでグアムを訪れることもあります。ただ、多くの人はゆっくりと楽しんでいます。大会数が増えないと、柔術人口も増えないでしょうね。1年に3,4回大会があれば、5年ぐらいで形になるとは思うんですけどね。中華圏に柔術を広めるのは難しいですが、遣り甲斐を感じています。

MMAの方が人気が出る可能性があると思います。香港の人達は見た目の恰好良さに影響を受けるようなので。実際、キックボクシングの人口は、柔術よりも全然上です。柔道よりも多いと思います。ジムの数もキックは多いです。そして、キックからMMAへという流れもあります」

──そんな柔術後進国の香港で、荒牧さんはなにを目標に柔術人生を歩もうと思っていますか。

「僕のなかで決めているのは、日本へ戻ることです」

──エッ、そうなのですか。

「弘中(邦佳)さんとジムをやっていくことは、僕のなかで決っていることなんです。弘中さんの下で、永遠にやっていきたいです。男が男に惚れるという感覚なので(笑)。数年後に日本に戻って一緒にジムをやりたいです。東京になるのか、山口になるのか、福岡になるのか分からないですが、番頭のような形でやりたいと思っています。こっちのジムは一番弟子のライアンに任せて、帰国したいと思っています」

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