この星の格闘技を追いかける

Column 「氷点下22度の熱気」

2011.05.17

Scandinavia 01
【写真】昼間は夜ほどでもないが、それでも尋常ではない寒さだった。極寒のフィンランドから帰国後、東京には一晩滞在しただけで、南半球ブラジルへ向かい、そこは摂氏42度だったことが、昨日のように思い出される

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年2月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

「やっぱり帽子を被っていないな。暖かいところからやって来る連中は、みな帽子を被らない。ホラ、これを被らないと耳が千切れるぞ」。巨漢+スキンヘッド、そしてメガネをかけた独特の風貌の持ち主マルコ・レイステンが、らしくニヤリと笑い、毛糸編みの帽子を手渡してくれた。

2003年1月、フィンランド第3の都市(といっても人口は17万人程度)トゥルクの空港に到着したのは、夜の9時を回っていた。近郊の街ナーンタリに、島全体がムーミン谷と化したムーミンワールドがあり、この街の空港に降り立った者もムーミンたちが出迎えてくれる。

が、そんな歓迎ムードも束の間、建物の外に一歩踏み出せば、『耳が千切れる』という話もジョークとは思えない痛みにも似た、寒さを感じる。すぐにまつ毛が凍ってしまうのも当然、外気温計は氷点下22度という数字を示している。バルト海に面したトゥルクを訪れるのは、これが2度目のこと。前年10月に北欧で初めて開催されたプロ修斗公式戦を取材するためにやってきたとき、トゥルクはまだ紅葉が残る秋だったのに、3カ月で街の様子は一変していた。


翌朝、ホテルの窓から完全に凍ったアウラ川でスケートやスキーを楽しむ人たちを眺めて、改めて北極圏に近い街にやってきたことが実感できた。この時のトゥルク訪問の目的は、アブダビコンバット欧州予選を取材するためだ。

ちなみにマルコは、今やADCCの大物になった人間で、同予選大会のオーガナイザーであり、スカンジナビア修斗の代表でもある。

Scandinavia 03【写真】北欧格闘技界への扉を開いてくれた、ユノラフ・エイネモ

今も、まだそういう感覚を残している人もいるかもしれないが、スカンジナビア諸国とMMAは、全く結びつかないというイメージが強い。実際、僕もこの1年少し前まで、スカンジナビアに総合格闘技を志す者がいること自体、気づいていなかった。

2001年10月にオランダで初めてプロ修斗(=欧州初のプロ修斗興行)が開かれた際、メインに出場したのが、ノルウェーからやってきたユノラフ・エイネモだった。ヘビー級のエイネモは、2000年のムンジアル青帯無差別級を制し、翌年にはADCCでもヒーガン・マチャドを破るなど、そのポテンシャル高さをいかんなく発揮した。しかし、ムンジアルにおける彼の活躍を目の当たりにしたにも関わらず、余りにも普通に柔術が強かったことで、彼のことを勝手にブラジリアンだと思い込んでいた。

Scandinavia 04【写真】02年10月に初めて見た、ヨアキム・ハンセン

そのエイネモの寝技の強さに驚いた1年後、彼の盟友ヨアキム・ハンセンの試合を取材し、自分の目が如何に節穴だらけかと実感させられた。ユノラフとヨアキム、二人の水先案内人を得て、スカンジナビア格闘技界に踏み込むことができた。

ムーミンの国ではムエタイ人気がソコソコあることを知った。マルコがトゥルクで頭突き+踏みつけ有りのアマ大会(ファイトマネーが出ない)をプロモートし、スウェーデンのヨーテボリを拠点におくシューターズ・シュートファイティングでは、パウンドなしの打・投・極が認められたアマ試合が行われていることを知った。

ただし、本当の意味で北欧勢の可能勢を感じたのは、このアブダビ欧州予選からだろう。全5階級決勝進出者10名中、北欧以外からの出場選手は3人のみ。実に7名が北欧勢で、5人がフィンランド人、ノルウェーとスウェーデンがそれぞれ1名ファイナル出場者を輩出していた。

Scandinavia 02【写真】ADCC欧州トライアル、77キロ級決勝でユッシ・タメリンと戦うヨアキムのセコンドは、ユノラフ。この年の5月に快挙を成し遂げる

77キロ級とはいえ、ヨアキムにギロチンを極めて一本勝ちしたユッシ・タメリン。道着なしの試合で跳びつき十字を極めるなど、今も鮮烈な印象が残っているグラップラーと、その同門たち。地元の利とも取られがちな結果だが、試合内容からもフィンランド&北欧勢の優位は、動かしようのない事実だった。

同時に5人の優勝者のうち、MMAと兼業するファイターは99キロ優勝のミカ・イルメンのみ。北欧ではグラップリングとMMAの分業は日本に先んじて行われていた。5カ月後に開かれた本番ADCC世界大会で、日本人対決以外で一つも白星を挙げることができなかった日本勢に対し、北欧からは99キロ級でエイネモが優勝を果たした。

氷点下22度のなかで感じた熱気が、後押しした快挙だった。

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