この星の格闘技を追いかける

Column 「1996年6月のリオデジャネイロ」Part.03

2011.01.21

Carlson vs Ruas
【写真】会見会場となったホテルの入り口で、言い合いを始めた今は亡きカーウソン・グレイシーとマルコ・フアス。その様子を眺めているウゴ・デュアルチ、ヴァリッジ・イズマイウの眼が怖い

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2010年7掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

Part.01Part.02
1996年6月のブラジル訪問、ピメンタという強力な個性を持つ人間が存在したことは前回までのコラムで触れさせもらったが、彼以外にも滞在中の身の回りで起こる出来事は、日本の常識では考えられない刺激に満ちていた。

初めて本場で目にしたUVFというバーリトゥード以上に、佐藤ルミナと巽宇宙が参加した最強カーウソン・グレイシー軍団のUVFのための合宿が、強く記憶に残っている。

本来のアカデミーでなく、コンドミニアムの会議室のような広い一室に、畳マットを引きつめ、一般練習生の参加はお断り、カーウソンの高弟だけが汗を流す、今でいうところのプロ練習。右を見ても、左を見ても、当時のトップファイターばかり。そんななか、ヴァリッジ・イズマイウが、手鼻をかんでマットに擦りつけ、痰を道着の裏地に吐くシーンを目の当たりし、「日本人はこいつらに絶対勝てない」なんて、見当違いの尻込みをしてしまったりもした。


体調不良にも関わらず取材を重ねたことで、再び発熱した僕をピメンタのコンドまで愛車で送ってくれたベベウ・デュアルチ。

スポンサーのバンコデブラジルにバーリトゥード出場を禁じられており、練習を見ながら話し相手になってくれたヒカルド・リボーリオ。

Bustamante【写真】ジョアォン・アルベルト、カーウソンはエリオ派の二大看板だった時代もある親友同士。その縁でルミナ&巽が合宿に参加させてもらい、多くのファイターがフレンドリーに接してくれたが、闘将ムリーロ・ブスタマンチは別だった

ルミナや巽に懇切丁寧に、柔術的なポジショニングを指導してくれたマリオ・スペーヒー。その彼を咎め、指導を中止させたムリーロ・ヌスタマンチらは、その後、世界に名だたるBTTの創設メンバーとなる。

ムリーロは、日本人ファイターだけでなく、日本人記者にも敵愾心を露わにしていた。柔術の強さを誇示するために戦う――、そんな時代だからこそ、ムリーロの鉄仮面のような冷たい表情、そして言葉使いは十分に理解できた。

コパカバーナの路上でUVFに出場する柔術勢とルタリーブリ勢が、口論を始めたときも――そんな時代だからこそ――大して動揺することもなかった。

ビッグビジネスの到来に呉越同舟。外国勢ファイターと戦う彼らは、ブラジル格闘技界のセレソンとして、共同戦線を張っていたが、会見やルールミーティングの席上で、柔術勢とルタリーブリ勢の間には、何かをきっかけに感情のもつれが爆発する――そんなピリピリした暴力的な雰囲気が漂っていた。

UVFは日本とブラジルで交互にイベントが行われ、当然、プロモートに関係する日本人も存在していた。○○企画と名乗っていた彼らは、それは怪しいというか、あちら系の臭いを醸し出している人たちであった。

Indio【写真】勝手に期待され、多大な期待外れの烙印を押されたインジオだが、14年経った今も、自分がそんな風に扱われていたとは思ってもいないだろう

「インジオという、アマゾンからやって来た野生児で、とんでもなく強い奴がいる」と散々、くだんの○○企画関係者から聞かされていたファイターがいた。未知のブラジルマット界には、そんな得体の知れない格闘家が存在するのか。後にインジオというニックネームを持つ人間を両手の指では足らないほど知ることになるとは露知らず、彼の言葉に乗らされ期待に胸を膨らませていた。 
 
結局、インジオ君はヘンゾの弟子としてRINGSに出場したアジソン・リマに3分少しで、アッサリと一本負け。野生児どころか、単なるボディビルダーだった。
ホリオン・グレイシー&UFCに続けと、UVFにビジネスの拡大を見たブラジル格闘技界の面々。柔術勢よりも、国内で知名度が圧倒的に低いルタリーブリ勢は、それこそPR活動に躍起になっていた。

○○企画も柔術勢と違い、国際的な人脈を持たない彼らに目をつけていたようだが、結局、UVFと彼らは2度目の日本大会後、手が切れたようだった。

その後もケビン・ランデルマンなど米国勢を招聘したUVFだが、翌97年に短い歴史に幕を閉じ、96年の春から夏に掛けて、柔術のライバルとされたルタリーブリが眩く輝いた時間は、UVFの活動期間よりも、さらに短い泡沫の夢で終わった。

その一方で、あれだけ日本人記者を警戒していたムリーロだが、時代がVTからMMAへ変わっても、その実力を以て世界中で活躍。ブラジルだけでなく、米国、スウェーデン、日本といたるところで何度も顔を合わせるうちに、「オヘイドセルベージャ(=飲んだくれ)」という愛称を授けてくれるほど、打ち解けた間柄となっている。

<MMA情報モバイルサイト=格闘技ESPN>
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