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【Special】『MMAで世界を目指す』第5回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と体づくり」─01─

【写真】高校生に全日本アマチュアMMAを制した、ALIVE所属の山本麻弥。彼のような十代ファイターが増えていくと同時に、新しい体づくりも求められている(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第5回目は、前回に続き公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と体づくりについて考える。
Text by Shojiro Kameike

<連載第4回Part.01はコチラから>
<連載第4回Part.02はコチラから>


鈴木 前回に続いて公認スポーツ栄養士の牛島さんと一緒に、MMAファイターに必要な食事や栄養の摂り方などを考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

牛島 よろしくお願いします!

鈴木 今回のテーマは2つあります。一つは成長期の減量と体づくり、もう一つは昼間に仕事や学業がある選手の食事の摂り方についてです。

まずは成長期の減量と体づくりについて――我々がMMAを始めた二十年前というのは、選手は大人ばかりでした。柔道やレスリングからMMAへ、というように。しかし今は子供の時期からMMAを始めていることが多いです。成長期、つまり中学3年間や高校3年間は身長も体重も大きく変わる。その時期の減量や体づくりには、どうしても公認スポーツ栄養士さんなど専門的な知識が必要になってきます。

牛島さんの「公認スポーツ栄養士」という資格の詳細は前回記事へ(C)SHOJIRO KAMEIKE

牛島 MMAが階級制のスポーツであるという点がポイントですよね。成長期の体づくりを考えるうえで重要なのは、骨が成長するのは20歳まで。筋肉や脂肪は20歳以降でも増やすことはできます。しかし骨量を増やすことができるのは十代の間ですから、その時期に過酷な減量を課すのは……。

鈴木 栄養士の観点からすると、絶対にNGですよね(苦笑)。身長も伸びている、骨量も増やさないといけない時期でも階級を変えず、どんどん減量がキツくなってくるという。

牛島 そうなると骨量が増えない恐れがあります。もっと長い目で選手のことを考えてほしいな……という気持ちにはなってしまいますね。

鈴木 十代の成績より二十代の健康を考えてほしい。ウチのジムでも高校生が入会してきたら、まず身長について訊くんです。身長が伸びている間は、無理な減量をすることがないように階級を考えるようにしています。

一方で、ウチの山木麻弥は高校2年生でパンクラスのアマチュアMMA全日本選手権で優勝しましたが、プロデビューは遅らせました。というのも、まだ成長期だから、練習していると痛みを感じる箇所が多くて。彼は天才児ではあるけれど、やっぱりプロで試合をしていくためには、ちゃんと体づくりをしないと――と思いました。

牛島 確かに。せっかくの才能がもったいないですよね。

鈴木 子供の頃からMMAをやっていて、高校時代にプロデビューする選手は今後も増えていくでしょう。そのためには十代の選手の体づくりは考えておかないといけない。

牛島 栄養の摂り方は年代によって変わってきますし、シーズンによっても違いますしね。

鈴木 シーズンという点では、MMAは他の競技と違ってオフシーズンがないんですよ。

牛島 えっ、オフシーズンがないというのは……。たとえば野球やサッカーなどは、オフシーズに体をつくり込んだりしますよね。そういうことができないわけですか。

鈴木 そうなんです。打撃主体か組み技主体かでも体型から違ってきますし。

牛島 う~ん、それは難しい(苦笑)。何が合っているか、何が合っていないかの幅も大きく変わってきますよね。

鈴木 成長期の選手と昼間に仕事や学業がある選手、いずれも知りたいのは「1日のうち何時、何を摂取すれば良いのか」ということだと思います。オフシーズンがない、定期的に試合をする選手に必要な体づくりと栄養とは何なのか。

牛島 常に体が出来ている状態にしていないといけない、ということですね。

鈴木 はい。プロになればスクランブル出場――試合直前に欠場した誰かの代わりに試合をすることもあります。道場の場合だと、自分の試合が終わっても道場の仲間の試合があれば練習相手になる。完全にオフになる期間というのは、なかなか少ないです。

練習前と練習後、いつどんな栄養を摂取するべきなのか。後編でさらに深堀していきます(C)SHOJIRO KAMEIKE

それとMMAの場合は学生であれば昼は学校に行って、夜に道場で練習する。社会人であれば昼は別の仕事を持っていて、仕事が終わってから夜に練習する。そして夜10時か11時に練習を終えて、帰宅して寝て、翌朝はすぐ仕事や学校に行くというケースが多くて。

牛島 そのケースであれば、まず朝と昼はきちんと食べますよね。あとは補食で繋いでいくしかないと思います。

鈴木 補食というのは?

牛島 「食事を補う」と書いて「補食」と言います。お菓子などではなく、おにぎり、パンなど栄養のあるものを指します。

鈴木 炭水化物が中心になるのでしょうか。

牛島 いえ、たんぱく質も含みます。要はガッツリとした食事ではなく、軽食といって良いかもしれません。まずは朝ごはんと昼ごはんをしっかりと食べておくことが前提で、あとは練習中にもエネルギーを補給しておかないと、そもそも体力がもたないですよね。

鈴木 そうなると、まずは生活習慣から変えていかないといけない。

牛島 たとえば朝ごはんが補食レベルだと、1日はもたないと思います。もう1日に必要なカロリーを朝と昼に摂るぐらいの意識でいないと……。

鈴木 朝起きてすぐの時間は胃腸が動いていない、つまり消化が悪いという状態になってはいませんか。

牛島 仰るとおりです。朝ごはんの場合は、まず温かい白湯を飲んでから食べたほうが、内臓の働きが良いですね。朝ごはんが定食形式なら、お味噌汁から飲んだりとか。

鈴木 あぁ、なるほど。ごはんを食べる時にまず味噌汁から口をつけることが多いけど、それも理に適っているというか。

牛島 コース料理は、まさにそうです。スープ、前菜、たんぱく質から最後に炭水化物と。これが健康に良い順番です。これが増量の場合は逆で、野菜ではなく糖質から摂ります。

鈴木 え、どういうことですか。

牛島 減量の時は「ベジタブルファースト、カーボフィニッシュ」といって、先に食物繊維を食べておきます。すると血糖値の上昇が緩やかになり、同じものを食べても体重が増えにくくなると言われていて。反対に増量の場合は「カーボファースト、ベジタブルフィニッシュ」で、先に糖質で血糖値を上げておいてから他のものを食べると、筋肉が増えやすくなります。

鈴木 それこそまさに、まず筋肉を増やしてから減量で体重を落とすMMAに必要なことですよね。たとえば幼少期から打撃系競技をやっていた子が高校生になってMMAを始めようとした時、やはり線が細い子が多い。道場でレスリングや相撲をすると押し負けてしまうから、まずは筋肉を増やさないといけないという状況ではあります。

牛島 その場合は、やはりカーボファーストですね。野菜でお腹いっぱいになっちゃうと、糖質まではお腹に入らなくなってしまうので。特に食が細い子は、野菜よりもお肉のほうを優先して食べてもらうことはあります。

<この項、続く>

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