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【UFN199】「コブラカイ?」&「スクールとジム」。モハメッド戦前のワンダーボーイにカラテ論を訊く

【写真】まさにジェントルマンキックの天才らしく、非常に紳士的な受け答えだったワンダーボーイ(C)MMAPLANET

18日(土・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガスのUFC APEXでUFN199:UFN on ESPN+57「Lewis vs Daukaus」が開催される。

同大会のコメインでスティーブン・ワンダーボーイ・トンプソンが、ベラル・モハメッドと対戦する。幼少期からアメリカン・カラテで活躍し、アメリカンキックボクシング=ジェントルマンキックではプロ&アマ通算58勝0敗だったトンプソンは、かつてGSPが最高のストライカーと認め、その技術を吸収することでMMAの完成度を高めたほど距離のコントロールに長けている。

独特の構え、サイドキックを多用するスタイルは父から教わったファミリーのカラテだ。そのカラテ、マーシャルアーツと共に生きるトンプソンは、他とは一線を画したMMAファイター──いやMMAを戦うマーシャルアーチストであった。


──インタビューの機会を頂き、ありがとうございます。ベラル・モハメッド戦を控え、今の気持ちを教えてください。

「トレーニングキャンプは最高だったし、体重も順調に落ちている。最高の状態だよ。ベラル・モハメッドはとてもタフな対戦相手で、どの局面でも優れている。打撃も強くて、レスリングも上手い。柔術だってできる。ただし、どんな試合展開になろうともしっかりと準備してきたから問題ないよ」

──スティーブンはアメリカン・カラテをベースに戦うファイターですが、空手には多くのスタイルがあります。伝統的な空手出身のMMAファイターは多くが、距離とタイミングの取り方がボクサーやキックボクサーと違うという共通点があります。

(C)Zuffa/UFC

「そうだね、極真、松濤館、アメリカン・スタイルを含め色々なカラテが存在する。

そしてレンジとタイミングこそ、僕がカラテから取り入れている一番重要な部分だよ。僕はトラディショナル・マーシャルアーツの中で育ったけど、MMAではいつもリョート・マチダを追っていた。彼こそ伝統的なカラテのスタイリストだからね。

UFCでは今も多くの人が、カラテを軽視している。カラテは使えないって言う人間もいる。でも、リョート・マチダはカラテがMMAで有効なことを示した。そしてボクシングやキックボクシングのレンジで戦う選手たちは、カラテのレンジだと攻撃が当たらないと思っている。でもリョートがそうだったように、カラテ家はこのギャップを速攻で埋めることができるんだ。レンジのマネージメントが僕らのファイトの肝だよ」

──確かに遠い距離からの出入りをし、また相手を誘い出すことも手です。と同時にMMAでは接近戦で戦い続ける展開もあります。遠い距離から踏み込むとカラテのステップですが、パンチはボクシング風になることも少なくないです。下半身はカラテで踏み込み、上半身にボクシングの捻り効果で殴るというような。

(C)Zuffa/UFC

「MMAを戦う上で、僕の主武器はカラテだ。

ただし、MMAを戦うなら他のスタイルも学必要がある。カラテで距離をつめ、エルボーやニーを使うこともある。ローキックはカラテの一部だ。そのすべてを使うのが、僕らのスタイルだよ。ボクシングとキックボクシングのトレーニングをして、対戦相手によって近い距離で戦う必要性もあるからね。

僕は子供の頃から父にトラディショナル・マーシャルアーツを習い、今も父と一緒にカラテ・スクールで指導している。僕にはカラテは欠かせないものだけど、MMAを戦ううえではキックやボクシングを知る必要がある。そこで下半身と上半身の体の使い方を融合させることができるんだ」

──そのカラテ道場ですが、コロナ禍で経営に影響が出ることはなかったですか。

「きっと地域差があるんだろうけど、サウスカロライナでは最初の感染拡大から8週間ほど、スクールを閉める必要があった。でも、それ以降は厳格なロックダウンはなかった。今では以前と変わりない活動をすることができている。実際、パンデミックで外に出られない時期もあったせいか、以前より多くの人がスクールにやってきてカラテの練習をしているんだ。僕もスクールでの指導をビギナークラスから、プロクラスまで受け持っている」

──スティーブンは初心者クラスから、プロクラスまで全てに参加して指導を行っていると聞いたことがあります。

「僕はずっと初心者の人たちとスパーリングを続けているけど、本当に彼らから学ぶことだらけなんだ。皆が違う動きをする。そんな皆に対応することで、コントロール力がつくんだ。ヘッドムーブ、頭の動きは有効だろうかだとか。距離のマネージメント、一つ一つの技の確認を数多くのスパーリングで行うことで、僕の戦い方はずっと良くなる。

ハイレベルなプロファイターとのスパーリングでは、実は狙い通りの動きができないことも多い。何よりプロファイターの多くが、試合が決まると練習量を増やす傾向にある。僕もファイトキャンプを行うけど、普段からスクールで生徒たちと練習をしている。ハイレベルな選手だけでなく、経験の多い生徒、そして初心者とあらゆる人々と常日頃から練習をすることで、僕のスタイルは出来上がっているんだ。

毎日練習すること。カラテの稽古は僕の人生だ、ライフスタイルなんだ。毎日、成長するためにトレーニングをする。肉体的、精神的、頭脳的、全てにおいて自分を成長させたいんだ。

マーシャルアーチストとは日々、成長すること。日々、鍛錬すること。ただタイトルにフォーカスして、練習をすることではないと思っている。自分を毎日、成長させることで試合も成功を収めるというリータンがあるんだ」

──ファイターではなく、スティーブンはマーシャルアーチストなのですね。ところでカラテの指導も人生の一部であるスティーブンにとって、映画カラテキッドのその後を描いたコブラカイというNetflixのドラマをどのように思っていますか。

「コブラカイ? どういうことだい?」

─高校生たちの抗争やカラテが使われることをどのように思いますか。TVドラマとしては良いのですが、カラテが暴力に見える描写が多くスティーブンのような人はどのようにうつのかと……。スミマセン、下らない質問で。

「いや、そんなことはないよ。カラテに注目が集まることは、嬉しいよ。実際にコブラカイを視たから僕のスクールにカラテを習い来た生徒もいる。そして、彼らは直ちにマーシャルアーツは、あんな風に喧嘩の道具に使うモノではないことを学ぶんだ。

マーシャルアーツとは規律、尊敬心、倫理、自制を学ぶモノだ。間違った理由のために使う道具ではない。僕たちは戦いの道具を指導しているわけじゃないだよ。それがスクールやアカデミーと、ジムの大きな違いだ。僕らはトラディショナル・マーシャルアーツを指導している」

──日本の武道の教えですね。使わないために学ぶ。

「だから僕は一度、日本に行ってトラディショナル・マーシャルアーツのスクールで学びたいと思っているんだ。それが僕の夢なんだよ。僕にマーシャルアーツを教えてくれた父は66歳になった。スパーリングはもうやっていない。でも、毎日スクールにやってきて型をやっている。僕も型は大好きなんだ」

──そうなのですか!!

「子供の頃からマーシャルアーツの練習をして成長してきたけど、ずっと型は好きじゃなかった。なぜ、型をする必要があるのか、全く分かっていなかった。分かろうともしなかったよ。今では型があることで、マーシャルアーツの稽古は完全になると思うようになった。

型をやることで、体の不具合を知ることができる。型をすることで肉体、精神、頭脳の状態を良くできる。父がそれを実践しているんだ」

──スティーブン、余りにも興味深くて試合のことを聞く時間がなくなってしまいましたが、ワンダーボーイのマーシャルアーツ論を伺うことができて良かったです。

「こういう話をインタビューですることができて、光栄だよ。こちらこそ、ありがとう。そして土曜日の僕の試合を、日本のファンの皆に見てもらえると嬉しいよ」

■視聴方法(予定)
12月19日(日・日本時間)
午前6時00分~UFC FIGHT PASS

■UFN199対戦カード

<ヘビー級/5分5R>
デリック・ルイス(米国)
クリストファー・ダカウス(米国)

<ウェルター級/5分3R>
スティーブン・トンプソン(米国)
ベラル・モハメッド(米国)

<女子ストロー級/5分3R>
アマンダ・レモス(ブラジル)
アンジェラ・ヒル(米国)

<バンタム級/5分3R>
ハファエル・アスンソン(ブラジル)
リッキー・シモン(米国)

<ライト級/5分3R>
ディエゴ・フェヘイラ(ブラジル)
マテウス・ガムロ(ポーランド)

<フェザー級/5分3R>
ダレン・エルキンス(米国)
カブ・スワンソン(米国)

<ミドル級/5分3R>
ジェラウド・マーシャート(米国)
ダスティン・ストーツフス(米国)

<バンタム級/5分3R>
ハオーニ・バルセロス(ブラジル)
ヴィクター・ヘンリー(米国)

<ヘビー級/5分3R>
ジャスティン・タファ(米国)
ハリー・ハンサカー(米国)

<女子フライ級/5分3R>
シジャラ・ユーバンクス(米国)
メリッサ・ガト(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
シャルル・ジョーダン(カナダ)
アンドレ・イーウェル(米国)

<女子フェザー級/5分3R>
ラケル・ペニントン(米国)
メイシー・シェエソン(米国)

<ヘビー級/5分3R>
ドンテイル・メイス(米国)
ジョシュ・パリジャン(米国)

<ライト級/5分3R>
マット・セイレス(米国)
ジョーダン・ラヴィット(米国)

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