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【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月─その弐─ミシェル・ニコリニ✖アンジェラ・リー「怖い……」

Nicolini【写真】この風格、美人なのに美形というより格闘士ぶりが伝わってくるニコリニ (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ7月の一番、第2弾は12日に開催されたONE96からミシェル・ニコリニ✖アンジェラ・リーの一戦を語らおう。


──7月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「ミシェル・ニコリニとアンジェラ・リーの試合ですね」

──おぉ、柔術ウォーが繰り広げられた一戦ですね。

Sweep「あの展開は正直……アンジェラは組んだら話にならないよねって思っていたんです。組の質からすると。想像はつきましたけど、ニコリニが潜りまで使うとは思わなかったです。しかもディープハーフで背中側に返すジェイク・シールズっぽい、尻もちをつかせる動きもあった。

それとアウトサイドのヒールから、リバーサルを決めるとか。可能性の見えた試合だったと思います」

──それでもアンジェラはニコリニを相手に肩ブリッジ、テッポウでリバーサルしたり、バックグラブも胸を合わせることができた。MMAの勝ち方としては間違っているのですが、寝技に付き合える技量を持っていることを示しました。

「付き合わないで、立って殴った方が勝てていたでしょうね」

──それでもONE判定ではアンジェラではないかという見方も十分に成り立った試合です。

「ダメージという部分ですよね。ただし、ONEの裁定ではニア・フィニッシュがその上にくる。ならマウントやバックマウントの奪取はフィニッシュに近づいていると考えることができますよね」

──う~ん、ただしONEではニア・フィニッシュの下にダメージ、その次に打撃のクリーンコンビネーションと寝技でのポジション奪取という評価基準があります。そこでいえばマウント奪取はポジションなので、ダメージより下の評価ではないかと。

「あぁ、そこかぁ。アンジェラの打撃がチップで、クリーンじゃなかったという捉え方もできますしね」

──ハイ。その判断だとアンジェラの打撃はアグレッションになり、ポジション奪取よりも下の評価でしかないテイクダウンの奪取&スクランブルで立ち上がる攻防よりも、さらに下位の評価となります。

「スプリットにもなっていないので、今回はジャッジの見方が一致しているんですよね」

──最終回、あれだけ動けなくなったニコリニはダメージでなく、ただ自分が疲弊したという風に捉えられることが今のMMAであるのか。もう20年前に修斗で審判団から、自ら疲れたのは相手の攻撃によるダメージでないので、ダメージとはみなさないという見解を効いたことがありました。

「疲れとダメージ、それは完全に主観だし。今回のニコリニが勝ちなら、前回のティファニー・テオ戦も彼女の勝ちですよね。もう、そこは分からないです。ニア・フィニッシュの解釈も含め。よりフィニッシュに近づいたという観点なら、マウントはフィニッシュに近づいているので」

──ニア・フィニッシュは足関節の掛け逃げも助長しますし、判断が難しいですよね。

「ブドー・チャレンジのキャッチ的なポイントで、マルセロ・ガウッシアがキャメロン・アールの足関節で負けたみたいな(笑)。そういう判定基準とか勝敗を抜きにした部分で、これほど面白いグラップリングの攻防が見られたMMAは最近ではなったですよ」

──非常にダイナミックでした。

「ニコリニの引き出しの多さはもう、別次元ですね。彼女の柔術界における実績でいえば当然といえば当然なのですが……。あの階級には三浦彩佳がいてチャンピオンの名前を出したりしているけど、正直なところニコリニとは格が違うじゃないですか? 失礼な言い方だけど」

──失礼かどうかは、ケージのなかでハッキリするのが一番ですね(笑)。

「いや、ごめんなさい。それでも失礼です(笑)。格闘をする人間として、ニコリニは違います。ニコリニにトー・ホールドを習ったことがあって。その時の彼女のロジカルな説明が凄かったんです。彼女には理屈があって、足のフックがなくても、こういうことで、この取り方なら極まるからっていう風に教えてもらったことがあったんです。

ニコリニってモダンになる前の一つ昔の柔術なんですよね。そこにちゃんと理屈があって。技術力はずば抜けていますよ」

──スタンドで殴られている時と、グラウンドで殴られている時の気持ちの強さが違う。そこが純粋にMMAを戦う柔術家なんだと思いました。

「それがチャトリの言うオーセンティック(正統)なマーシャルアーツですよね。ニコリニはまさにオーセンティック。本物の風格を普段から感じるというか……」

──怖いぐらいです。そこに関しては。

「怖いっすよね!! それ分かります??」

──いや青木選手のことはニコリニもリスペクトしているでしょう。自分など一介の記者だから、もう取材の時も目の色がなくてガラス玉のように冷たい感じで(苦笑)。

「『私の何を知ってんの?』って感じですよね。分かりますよ、そこ。ある程度斬り合う覚悟で、こっちも刀を見せないと対等に話せない。相手にしてくれないですからね」

──そしてアンジェラに勝ったあとで、『凄いジウジツだったね』というと、ガラス玉に色が入るような感じでフレンドリーになって(笑)。

「分かる!! スゲェ、分かりますよっ!!  僕はかなりフレンドリーにしてもらっている方ですけど……でも、今から思うとやっぱり僕の方が下に入っていました(笑)。怖いんですよ……」

──人に非ざる者の空気感があります。

「そこ、分かってくれて良かったです(笑)。本当にそうなんですよ。腕を破壊するのとか、半端ないですから」

──10月の日本大会でぜひとも見てみたいですね。

「試合がないならファン・フェスティバルでセミナーでもやってもらいたいですよ」

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