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【Special】月刊、青木真也のこの一番:2月─その壱─クロン・グレイシー×アレックス・カサレス

Kron Gracie【写真】クロンの組の強さに関して、実際に肌を合わせた青木が語るのだから説得力がある (C)Zuffa LLC/Getty Images

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2019年2月の一番、第一弾は17日に行われたUFC ESPN01からクロン・グレイシー✖アレックス・カサレスの一戦を語らおう。


──2019年2月度の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。

「クロン・グレイシーとアレックス・カサレスの試合ですね。クロンは……皆が思っている以上に僕らの世代はグレイシーに思い入れがある。グレイシーだから価値があるのかな、クロンに価値があるのは。もちろん、クロンに価値はあるのですが、その価値を倍増させるのがグレイシーへの思い入れだとか、歴史なんだと思います」

──もう何もしなくても柔術とMMAを世界に広めたファミリーの末裔なわけです。

「既得権のなかで居続けることができるのに、わざわざ戦う。だからこそ乗れます。既得権で食っていれば良いのに挑戦する姿勢ですよね。世の中、特に日本は変わってきて変化することと挑戦することが色々な業種に求められている。

クロンが勝って沸くのは変化と挑戦が必要なのに、それは辛いということが分かっているから。UFCに出てあの勝ち方をするクロンに感情移入できたのかと思います」

──会社内で巨悪に立ち向かうサラリーマン、大企業とやりあう町工場のドラマに感情移入するように?

「テレビで見て喜んでも、実際に自分はできない。そこをクロンに重ね合わせたと僕は思いました。SNSとか見ていると、グレイシーの幻想以上に思い入れがあったように感じましたね」

──なかなか日々の流れなのか、長くためて楽しむだとか余韻を引きずるのも難しい時代になっています。それでも直前にクロンがUFCに出るという記事を創ると、その反応は大きかったです。

「クロンは守っていないからですよ。それはホジャ―にも言えるかと思います。ホジャーは柔術やグラップリングのコンペティションに出ていたグレイシーですが、そこからMMAに挑戦した」

──カーロス・グレイシー系はヘンゾの思想もあり「戦ったことで負けることもある」という挑戦をし、一方のエリオ・グレイシー系は「負けない」ことを信条としています。そのエリオ系で負けない父を持つクロンが、と。

「存在を賭けて戦っていますね。ホイラー、ホジャーはコンペティションで戦っていて、そこにクロンが加わった」

──凄く頑張っているのですがネイマン・グレイシーが負けるのと、クロンが負けるのではグレイシーが負けたというインパクトが違うかと思います。

「それは違う、凄く違います。それとクリンチ、バックテイクから足を一本突っ込んで倒す。アレってヘンゾが近藤(有己)に勝った時と同じ。ベーシックで、伝統的な流れですよね」

──それをUFCでやってのけるのが、素直に凄いことだと。

「UFCですからね。UFCに弱い人間はいないし、カサレスは1試合で5万ドルを稼ぐ選手ですよ。信頼できる力がある」

──基本の完成度がやはりクロンは違うのでしょうか。

「技術的には抜群に高いと思います。バックって上手い選手に取られると、チョークに入られるなっていうのがあるんです。カサレスはクロンのバックの完成度の高さに、もう終わりだと感じたはずです。あれは凄く良かったです」

──打撃は危ういまま、引き込みはマイナスになるユニファイド・ルールで戦うという点も注目したいです。エリオ・グレイシー一派はルールを設定するところから戦いが始まっていました。でも、UFCではそんなことはできない。

「そこでいうとクロンはMMAにきて……特にUFCに来たことで最後は負けなんです。ゴールは負けるゾーンに入りました。それがまた凄いなと。ボードッグのホジャー・グレイシーが本当にやるのかって思ったのは、その戦いの輪に入ったこと……グレイシー、逃がさないぞっていう。

それにルールをいじくることができなくても、予防線を張るマッチアップを要求することはできます。でも、UFCはそれもできない。あの輪の中に入ると、絶対に最後は負けなんです。クロンは負けることを覚悟しているからUFCに入ったと思います。

UFCは勝ち逃げを許さないシステム。あれは地獄ですよ。GSPは奇跡的に勝って辞めるという魔娑斗スタイルができた。でも本来はUFCのシステムは勝ち残り方式で、最後の最後は負けるというモノですからね」

──その戦いのシステムに入ってクロンは、フェザー級でどこまでいけそうでしょうか。

「どこまで……“ど”レスラーが出てきたとき、それが楽しみです。カマル・ウスマンみたいな。あとはロシア人、ただマゴメドシャリポフはアルメイダ系だからヘンゾの弟子だし、グレイシー同士ということで嫌がるようなことが今でもあるのか。それからジェレミー・スティーブンスのようなストライカーとかも見てみたいですね」

──とにかく、いろいろと想像することも楽しみなクロンということですね。

「一芸に秀でていて、組み技は世界一だから。だから勝敗っていう部分だけでも面白いです。本当はあの世界感はチャトリがやりたいことだと思います。クロンってマーシャルアーツの権化みたいなものだし、凄く映えますからね。

それもUFCという他の普通にできる人間が数多くいる場所だからなんですよ。一般入試、センター試験があるからAO入試は存在感を保てる。AO入試だけでは、スペシャリスト感は出ないですよ」

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