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【ONE73】長谷川賢の挑戦を受ける英雄ンサン「ハセガワのことは全てタカシが教えてくれた(笑)」

Ang la N San【写真】タイ人ではないが、本当にやさしく微笑むオンラ・ンサン。1985年生まれの33歳、キャリアは22勝10敗でROC時代にはユライア・ホールやコスタ・フィリッポウと対戦経験もある(C)MMAPLANET

29日(金・現地時間)、ミャンマーはヤンゴンのトゥウンア・ナショナルインドアスタジアムでONE73 「Sprit of a Warrior」が開催され、メインでONE世界ミドル級王者オンラ・ンサンが長谷川賢の挑戦を受ける。

大げさでなく国民的なヒーローであるオンラ。試合会場の周囲では著作権無視のTシャツが堂々と販売され、開門を待つファンがオンラの応援ソングを合唱する。

そんな日本では想像できないポジションにあるオンラだが、彼自身は非常に物静かで何ら奢ることのない好青年だった。


――2日目の計量前、大変な時にインタビューを受けていただきありがとうございます。

「こちらこそありがとう。ケガもなく、9週間のキャンプを終えることができて、気持ちも強く保てているから何も問題ないよ」

――ONEのスタッフからオンラがミャンマーで国民的なヒーローになっていると聞かされていたのですが、2月の試合をヤンゴンで取材するまで想像ができていなかったです。それが空港からタクシーに乗ると、ドライバーが「オンラの試合を見にきたのか?」といってきて。そこで分かった次第です。

ONE67「とても光栄なことだよ。でも、僕が何者であるかという点において、何も影響を受けることはないよ。僕は僕だし、試合のために全力で準備し、全力で戦うだけだから。僕個人の生活は変わらないけど、プロフェッショナルとしてミャンマーの全国民を代表して戦うという点では、より懸命に取り組まないといけないと思って力を与えてもらえているよ」

――ONEで成功をおさめ、ファイターとしての生活は変わりましたか。

「チャンピオンになり、より自分に投資できるようになった。栄養士についてもらい、ストレングス&フィジカル・コーチの指導を受けているので、アスリートとして成長している。

そして昨年9月にアラン・ンガラニに勝った後、チャンピオンであるために正しい指導、良いトレーニングパートナーが必要だと思うようになったんだ。

そして年末からフロリダへ行き、ハードノックスでハリー・フーフトの指導を受けるようになった。素晴らしいコーチ、士気の高い練習仲間に囲まれて、この試合が終わったら家族も一緒にフロリダに引っ越すんだ。それだけの価値がある環境が整っている。

いずれはこういう環境に身を置くことを目標としていたけど、ONEで世界チャンピオンになれたので少し容易に、そして少し早くこの環境を手に入れることができたんだ。

プロフェッショナル・アスリートとして、このような環境を欲しているのは、僕らの活動がドクターや学校の教師のように一生を掛けて取り組むということが許されていないから。限られた期間のなかで、最高のトレーニングをしていたいんだよ」

――ところでオンラは、いつ米国に移住したのですか。

「2003年、18歳の時だよ」

――だからミャンマーの言葉を話し、性格もいわゆるアメリカンっぽくはないのですね。

「世界中、どこに住もうがミャンマー人としてアイデンティティを失うことはない。それに米国はミャンマー人が多いし、フロリダで寿司バーで働いているのは、ミャンマー人が多い。だから、いつもサービスしてもらえるんだよ(笑)」

――アハハハ。ところでミャンマーに住んでいた時から、格闘技の練習をしていたのでしょうか。

「空手を少しやっていたけど、シリアスなものじゃなかった。あとボクシンググローブを買って、兄弟とボクシングごっこをしていた(笑)。あのままミャンマーに住んでいたら、MMAを始めることはなかっただろう。

僕は情熱的な一面があるから、何かを始めるとそこでベストになろうとしていたと思うけど、米国に移住していなかったら、このレベルでMMAを戦うことはなかったはずだ」

――そのMMAを始めたきっかけは?

「米国で暮らすようになった翌年にカーウソン・グレイシー柔術の支部に通うようになり、すぐにキックボクシングとムエタイの練習も始め、その次の年からMMAで戦うようになった」

――東南アジアの選手は、打撃を習得していても寝技への取り組みは始まったばかりです。柔術というベースがあったので、オンラはONEで成功を収めることができたのでしょうね。

「その通りだと思う。だからこそ、打撃の練習にも力を入れてきた。ボクシング、そしてハリー・フーフトにキックボクシングの指導を今も受けているようにね」

――ハードノックスで、7月1日にパンクラス・ウェルター級王座決定戦を戦う佐藤天選手との交流はありましたか。

「タカシは僕の友人だよ。彼がケン・ハセガワについて、全てを教えてくれた。なんて、冗談だよ(笑)。タカシがフロリダに居た時は、まだハセガワとの試合は決まっていなかったからね(笑)。タカシが日本に戻る前日に、僕らは一緒に彼の家族へのお土産を買いに行き、寿司を食べたんだ。タカシは本当に良いヤツだよ」

――では長谷川選手についてはどのような印象を持っていますか。

「逃げることのない良いファイターだ。僕らは憎しみ合っているわけじゃない。競い合って、収入を得るために戦う。ハセガワもきっと、良いヤツに違いないよ。前にタツヤ・ミズノと何度か戦う話があったんだけど、実現しなかったからハセガワは初めて戦う日本人選手になるんだ。

日本のMMAファイターは北米の選手と違うよね。ベースが柔道で、柔術をやって。打撃もボクシングでも、空手のように距離を取り、タイミングを計って勝負する。タカシがそうだったよ(笑)。でも、タカシは結果的にハセガワと戦う僕にとって、良い練習相手になってくれていたことになるね。

でも僕はPRIDEのサクラバ×ヴァンダレイが好きだったんだけど。そういう意味でONEはPRIDEに近いかもね。選手同士が尊敬しあって、UFCのように罵り合うことがない。ケージの中はケージのなか。戦いを外まで引っ張り出すことは、僕は好きじゃないんだ」

――そこがやはり同じアジアの人間なのかもしれないですね。これだけのサポートを受けていると、逆に……。

「そうパワーを与えてもらえると同時に、凄くプレッシャーを感じるよ。ミャンマー全土の人が、僕に良い試合を戦うよう期待を寄せている。それにどこにいても注目されているから、もっと試合に集中したい。だから、ほんとはミャンマー以外の国で戦いたいなって思うこともあるよ(微笑)」

――そこもまた、アジア人ですね。今日はありがとうございました。明日、良い試合になることを期待しています。最後に日本のファンに一言お願いできますか。

「今回、日本人ファイターのケン・ハセガワと戦うことができて、とても光栄に思っている。いつの日か、日本で試合がしたい。その時が来ることを願っているよ」

■ONE73対戦カード

<ONE世界ミドル(※93.0キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]オンラ・ンサン(米国)
[挑戦者]長谷川賢(日本)

<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
レオナルド・イッサ(ブラジル)
ローマン・アルバレス(北マリアナ諸島)

<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R>
サゲッダーオ・ペットパヤータイ(タイ)
マー・ジャワン(中国)

<フェザー級(※70.3キロ)/3分5R>
ハファエル・ヌネス(ブラジル)
山田哲也(ロシア)

<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
アフマド・カイス・ジャスール(アフガニスタン)
チャン・レイ(中国)

<ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
ジェレミー・ミアド(フィリピン)
クリッサダ・コンスリチャイ(タイ)

<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
ソー・ダルワイト(アフガニスタン)
マイト・ヤイン(ミャンマー)

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