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【Fighter’s Diary con on that day】「試合がない日々」を生きる杉山しずかの声 on 2014年12月23日

Sugiyama【写真】写真は計量時のモノです。この時、K太郎選手との結婚を活字にできなかったような……記憶が (C)ABEMA & MMAPLANET

全世界を巻き込む新型コロナウィルス感染拡大の影響は当然のように日本の格闘家たちの人生にも影響が出ている。試合がない、大会が開かれない、練習場所の確保も困難だ。

そんな今、格闘技を愛する全ての人へ──ABEMA格闘CH が公式YouTubeチャンネルで Fighter’s Diary Ep.01というドキュメンタリームービーが12日(日)より、アップされている。

第1回でクローズアップされた格闘家は平田樹、若松佑弥、中村K太郎&杉山しずか夫妻、堀口恭司、青木真也の6名だ。

Fighter'sDiaryFighter’s Diaryは3週に渡り、3つのエピソードで総勢16人の格闘家たちの声をYouTubeで伝え、26日(日)午後7時より、ABEMA格闘CHにて Fighter’s Diary完全版が放送される。

そんなFighter’s Diaryでは「試合がない日々」を格闘家たちはどう生きるのか? ──という今の声を集めた。MMAPLANETでは、タイアップ企画ならぬボーディング企画を提案。MMAファイター達が今を発せられるようになった原点を探る上で、あの日の彼らや彼女達の声=on that dayとして、MMAPLANETインタビュー初登場時の声を紹介したい。

題してFighter’s Diary con on that day、第4回は2014年12月27日公開、12月23日に取材が行われた──DEEP DREAMでのライカ戦前クリスマスイブ・イブの練習後の──杉山しずかのあの日の声をお届けしよう。


<リードを含めた完全版はコチラから>

――大晦日は元ボクシング世界3階級制覇のライカ選手と、MMAルールで対戦することになりました。この試合は杉山選手が希望したことで実現したそうですね。

「はい。私のほうから、ライカ選手と対戦したいとお願いしました。ライカ選手がMMAをやると聞いた時、体重も近いので、試合をするなら私かなと思ったんです。ただ、来年あたりに対戦できたらいいな、と考えていたんですけど大晦日の舞台で試合が組まれて嬉しいです」

――大晦日の試合といえば、1年の総決算的な意味合いもあるかと思います。杉山選手の2014年は、これまで2勝1敗。その1敗は5月に、端貴代選手とDEEPジュエルスのミドル級王座(61.2キロ以下)を争い、判定負けを喫したものです。杉山選手のなかで、ベルトを取り逃したことに関しては、どのように受け止めていますか。

「負けはしたんですけど、私にとっては意味のある敗北だったのかなって思います」

――意味のある、と思うことができた理由は何ですか。

「試合前はなんとなく“勝てるかな”と思っていたんですけど……あとから考えたら、もう少し相手のことを研究しなければいけなかったし、端選手のほうが勝ちに来ていました。そんななかでも、自分が弱いと思っている部分以外は、もう少しやり方を変えればいけるかな、って考えることができたんですよ」

――なるほど。まず端選手に“勝てるかな”と思っていたポイントは何だったのでしょう?

「端さんがなぜ強いと言われているのか、技術的な部分が何も分かっていなかったんです(苦笑)」

――反対に、自分の弱い部分とは?

「寝技ですね。そこは端さんのほうが上でも、打撃は自分のほうが体格も上だし、何とかなると思っていて……」

――国内の女子総合格闘技界でいえば、48キロと52キロの階級が主軸であったなかで、57キロから61キロあたりで戦える杉山選手の体格は、ひとつの強みだったと思います。ただ、それでもジュエルスの新人王トーナメントや、端選手とのタイトルマッチなど、重要な試合で星を落としている、という印象は拭えません。

「はい。勝たなきゃいけない試合で勝てなかった。それは性格というか……どうしても甘えが出てしまうんですよね。練習にもムラがあったり」

――甘え、ですか。

「スパー中、相手の向こうに人がいたらタックルで押し込むことができなかったり、試合ではルール上で認められている攻撃でも、練習だと躊躇してしまうとか」

――その甘えが、試合でも出ている?

「試合中は、全く意識していないんです。でも、練習ではそういう時に、ひと呼吸置いてしまう。よく練習中に“そこは止まるところじゃない!”と怒られます」

――それは山崎剛さんが代表を務めるリーバサルジム代々木Me,Weの所属になってからも?

「所属が変わっても、自分のなかでは劇的に変わったところがないから、大事なところで負けてしまうんでしょうね。自分としては“こういう試合がしたい”と思っていても、周りから“杉山さんはコレが強いから”と言われると、そう期待されている動きに偏ってしまうんです」

――……。

「結果的に、自分の弱点を補うことができていないんですね。たとえば私は寝技が弱い。柔術やレスリングの練習も、しっかりやらなきゃいけないと思います。でも試合前になると、総合のスパーばかりになってしまう。時間がないから、疲れているから、勝つためには――って、苦手な練習に、時間を割かなくなってしまいます。自分でもそれは“逃げ”だったり“甘え”だということは、分かってはいるんですけど……」

――確かに、人材が決して豊富とはいえない女子格闘技界にあって、杉山選手に対する期待は大きいところもありました。

「重量級は私しかいなかったですからね。でも、買いかぶられすぎていたと思います」

――普段の言動からして、杉山選手はマイペースで、あまり周囲を気にしないタイプなのかと思っていました。

「いや、周りに左右されすぎなのかもしれないですね。もちろん練習でも試合でも、“ココはこうしたほうがいい”という指摘は、受け入れるべきだと思います。ただ、プロモーターさんやファンの人たちに“自分がどう見られているのか”ということも気になってしまうので」

――なぜ、そこまで周囲の目が気になるのですか。

「プロ選手って、そういうものだと思っていたんです。みんなに期待してもらえる選手でなきゃいけない。だから普段も“みんなは私に何を期待しているんだろう?”とか、タイトルマッチでも“ベルトを獲ったらどうなるんだろう?”という気持ちがあっって」

――うーん……では、ライカ選手との試合が発表された時も、“打撃勝負”という意気込みを口にしていましたが、それも周囲の期待を意識してのことですか。

「会見でも言った打撃勝負というのは、パウンドも含めてです。でも、そのためには抑え込むためのテイクダウンや寝技の練習をしなきゃいけないと思っています」

――改めてライカ選手は、ボクシングで世界3階級制覇を果たした、ビッグネームです。

「ビッグネーム……今回の試合に関しては、それは特に意識していません。確かにライカ選手はボクシングの世界王者だったけど、これは総合の試合なので。総合でいえば、たとえば浜崎朱加のほうがビッグネームだと思っています。“ボクシングのライカ”は皆さん知っていても、“総合格闘家のライカを知っている?”と聞かれたら、みんな知らないわけじゃないですか」

――大晦日の試合がMMA2戦目ですからね。

「私は私なりに、この世界(総合格闘技界)でずっとやってきました。もちろんライカ選手のことは、いちファイターとして尊敬しているし、試合ができて嬉しいです。でもこれは総合の試合ですから。だから負けられない、とにかく勝たなきゃいけないっていうことでは、大切な試合だと思います」

――ライカ選手のMMAデビュー戦、今年9月14日のイム・スジョン戦(判定負け)は見ましたか。

「見ました。でも、相手も総合格闘家じゃないし(イム・スジョンはキックボクサーで、シュートボクシングのRENAとも対戦している)、試合は寝技も30秒の制限がありましたよね。あまり参考にならないと思います。ライカ選手はヒザ蹴りでやられていたので、大晦日の試合にはそのあたりも対応できるようになっていてほしいです」

――……対応できるようになっていてほしい?

「対応できすぎると嫌ですけど(笑)、私にとっては距離を取ってボクシングをし続けられるほうが嫌かなって思うんです」

――ケージの試合で、ライカ選手がどんなステップワークを見せるかは楽しみですね。

「ケージでの試合は、私が有利かなとも思うんですけど、リングより広いので、ライカ選手が足を使って、私が追いかける展開は避けたいです。でも凄く気持ちが強い人だから、総合の練習をやりこんでくるはずだし、私もライカ選手と異種格闘技戦ではなく総合格闘技をやりたいんですよ」

――大晦日という舞台に関しては?

「女子の会場だけでなく、男子のファンにも見てもらえるのはテンションが上がります。DEEPの本戦に出た時も、いつもと感覚が違っていたし、今回一番ドキドキするのは、会場の大きさなんですよ。逆に心配になりますけど」

――普段のDEEPジュエルスだけでなく、DEEPなど男子の試合が行われる大会にもっと出ていきたいですか。

「まず楽しくやっていきたいのと、上がるステージを大きくしていくことが目標なんです。だから今まで、私の実績に関わらず、チャンスがあればどんな試合でもオファーを受けていました。ただ、今はそこに実績が伴わなければ、応援してくれる人もいなくなりますよね。たくさんの人に応援してもらって、勝つことで初めてステージを大きくできるんだって、今はそう思っています」

――その先に、UFCという目標はありますか。杉山選手が戦うバンタム級はロンダ・ラウジーを中心に盛り上がっていますし、9月の日本大会の際には、杉山選手も出場をアピールしていました

「……今はそこまでのビジョンを描けていないですね。とにかく目の前の試合に勝っていかないと」

――杉山選手のキャリアにとって、このライカ戦とはどんな意味を持つのでしょうか。

「私がお願いして組んでいただいた試合なので、チャンスを生かしたいです。2015年、2016年に向けて私の存在感を示していくために、大事な試合だと思っています」

――これから何かやりたいことなり、ビジョンを持っているということですか。

「やっぱりもう一度、DEEPジュエルスのタイトルマッチに辿り着きたいです。そのためにも、最初に言ったような自分の弱い部分を補わなきゃいけないんですね。今までは、試合が組まれると弱点を補うことに取り組めなかったんです。でもどんどん試合が組まれていったし……もちろんキャリアを積むことも重要だったから、それが良くなかったとは思っていないんですけど」

――一方で、試合が組まれると総合のスパーばかりになり、寝技に取り組むことができなかったと。

「はい。私としては、来年はもっと試合数が少なくなってもいい、その間に自分の弱点を補っていきたいと思っているんですよ。だから、ライカ選手と年内に対戦できて良かったです」

――次の試合は、今後のキャリアを考えるうえで、重要な一戦となるわけですね。

「大晦日にライカ選手に勝てば、来年は試合数が少なくなっても、存在感は示しておくことができると思うんです。だから今回の試合は、私がもっと強くなるために大切な試合。絶対に負けられません」

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