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【Column】「After Run 02」~ヒクソンの言葉

2011.08.28

Rickson & Aoki※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年5月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

【写真】2005年10月のブドー・チャレンジで、日本人唯一のウィナー=青木真也とヒクソン・グレイシー

2005年10月、ビバリーヒルズ近くのウィルシャー通りにあったヒクソン・グレイシー柔術センターで、ヒクソンにインタビューを行った。ブラジリアンに『ブラジル人よりルーズだ』と言われたこともある僕は、15分も前にアカデミーに到着したが、ヒクソン自身は20分遅れでやってきた。

「打撃が問題なのではない。バーリトゥードで見られる攻撃の多くが、相手を傷つけるために何をやってもいいという思考の下で繰り出させるものでしかないのことが、問題なんだ。それらをテクニックと称するのであれば、ゲームに勝つテクニックでしかない」

「93キロでいくら強いと言われても、自分よりもフィジカルの強い選手が現れるだけで、もう勝てなくなる。今のMMAは、バーリトゥードではなく、誰がよりパワーとファイティング・スピリットを有しているのかを争うタフマンコンテストになっている」


「私は柔術がベストであることを証明するためにリングに上がってきた。その目的が変わったことはない。今、私がリングに上がることを求めるなら、非常に多くのファイトマネーが必要となる。もう、私は何も証明するものがなくなったからだ。たくさんお金を用意してもらえるなら『ワォー、リングに上がろう』となる。それで家族に良い暮らしを与えることができるからね」

「ポケットに大金が貯まるのなら、時間制限があり、ブレイクがある粗悪なルールで、ヒョードルと戦ってもいい。タイム・オーバーになり、ヒョードルがポイントで勝っても、私のフィーリングは、何ら勝者のソレと変わりない」

「自分の存在証明のためなら、ファイトマネーに関係なく戦う。ノータイムリミット、ノーブレイク、カットによる試合のストップはなし。このルールを呑むなら、ファイトマネーは関係ない。ただし、寝技になるたびにブレイクが掛かるなら、私は『ハウマッチ?』とプロモーターに尋ねることになる」

ブドー・チャレンジのプロモーション的なインタビューを望んでいたと思われたヒクソンだったが、当時のMMAに感じる不満、そして提言を話し続けた。

記者として納得できない意見も含まれていたが、グレイシーという姓を持ち、その代表として戦ってきたヒクソンの立場を鑑みれば、素晴らしく賛同したくなる意見ばかりだった。

ヒクソンの言うことを、戦わない言い訳と捉える人もいるだろう。当時の読者からも、ヒクソンへの反論は多々見られた。ただし、僕はこう思う。

ヒクソンは、彼の言う柔術の技術が、フルに発揮できる条件の下で、鍛錬を続け、技術を磨いてきた。それがファイティング・エンターテインメントとして成立させるために、彼らが踏み込む必要のないフィールドで戦うというのなら、それなりのファイトマネーを要求するということだ。

この意見は、至極真っ当じゃないだろうか。結果、ヒクソンは自分の生き方を貫き通した。

Rickson Gracie【写真】2007年12月にはヒクソンの理念を深く取り入れたスーパーチャレンジというグラップリングの大会がサンパウロで開催された。優勝したシャンジ・ヒベイロに日本刀を渡すヒクソン。ブドーチャレンジの作務衣姿といい、『?』な日本文化との関わり合いを持っていたヒクソンだ

ビジネスとして成立させるためのルール下では、勝てると踏んだ相手としか戦わなかった。そうやって、彼は無敗を通した。今もMMAは進化を続け、最高にアスレチックで、テクニカルで、気持ちが入っていないと勝てない高度な戦いが繰り広げられている。

殴り合わなくても、動き続けることで勝利することが否定されない。ヒクソンのいう柔術がベストであることを証明するという戦いのプリンシプルを、今のMMAに持ち込むことはナンセンスであり、話にもならない。ボクシングでも、ムエタイでも、レスリングでも、柔術でもないMMAが、それらの技術を駆使して、どんどん構築されていく。

現代MMAは最高にエキサイティングで、その進化の過程を見られることに喜びを感じる自分がいる。ただし、そんな最高のMMA、例えば今年の1月1日に行われたフランキー・エドガー×グレイ・メイナード戦が、初めて見たMMAなら、僕はここまでMMAにのめり込むことはなかったと思う。 

1993年に、ジェラルド・ゴルドーを完封したホイス・グレイシーを見たから、今、僕はこの原稿を書いている。野蛮で、危険で、残虐だと感じたからこそ、柔術のポジショニングの有効性を知り、スポーティなMMAの確立を求めてきた。

そして、煙たがられてきた。全てはグレイシーから始まった。上記に書き連ねたヒクソン・グレイシーの格闘技論を咀嚼できるからこそ、エドガー×メイナード、ダン・ヘンダーソン×ジェイク・シールズ、リョート×ランペイジを楽しむことができる。なんて幸せな格闘技ファンなのだろうか――などと、ひとりごちるとしようか……。

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