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【The Fight Must Go On】あの時、〇〇が話していたこと─02─2011年6月9日、ビビアーノが話していたこと

Bibiano【写真】今から8年10カ月前のビビアーノ。さすがに若いが、その生い立ちから達観ぶりはずば抜けていた (C) MMAPLANET

国内外のMMA大会の中止及び延期、さらには格闘技ジムの休館など、停滞ムードの真っただ中です。個人的にも大会の延期と中止のニュースばかりを書かざるをえない時期だからこそ、目まぐるしい日々の出来事、情報が氾濫する通常のMMA界では発することができなかったMMAに纏わる色々なコトを発信していければと思います。こんな時だからこそ The Fight Must Go On──第10弾は過去のインタビューで、今も印象に残っている言葉を再収録したい。あの時、〇〇が話していたこと……第2回は2011年6月9日──カナダ・バンクーバー郊外リッチモンドで取材したビビアーノ・ヘルナンデスの言葉を振り返りたい。

2011年、東日本大震災のあった日本ではPRIDE後の格闘技界をDREAMとともに引っ張ってきた戦極が活動停止となり、そのDREAMも縮小化へ。レギュラーといっても過言でなかったビビアーノも来日が半年以上途絶えていたなかで、UFCやBellator移籍もあると見られていた。

そんななかDREAMで戦うことを拘るビビアーノは、当時は余り明らかとされていなかった達観した人生哲学を語り始めた。こんな今だからこそ、あの時のビビアーノの言葉をお届けしたい。


──このような状態になってもビビアーノが、日本で戦い続けるという想いはどこから起こってくるものなのでしょうか。

「今、試合がなければ道場のことを考えている。DREAMとの契約が残っているんだから、UFCで戦いたいとかベラトールで戦ってみたいとか、そういうことは口にしたくないんだ。最初に何かを始めれば、それは最後までやり通さないといけない。DREAMからなかなか試合の機会が与えられなくても契約は彼らとの間にしか存在しないんだ。そういう大前提として存在するものを飛び越えて次の話を進めることは、人間的にも良しとしないんだ。

僕はここにいる。今、君のインタビューを受けている。その時に他のインタビューのことを考えるわけにはいかない」

──なんだか本来は当然のことなのですが、状況が状況ということがあるなかでビビアーノの義理堅さには驚くばかりです。

「だって人は今を生きているんだ。将来のことばかり考えたってね。分かるだろう?」

──自分など将来に不安を感じ、今という現実を軽視してしまいがちなのでビビアーノの言葉が胸に響きます。

「将来のことなんて何も分からないよ。今、その足下を見つめないとね。DREAMから『ビビアーノ、君はもう要らない』と言われれば、他のオプションを考える。だからDREAMがなければ……という過程の話をしてもしょうがない。僕はジャングルで生まれ育った。

僕らは生き残るために生活していて、死というものを身近に受け入れている。だから今、できることをこなし、平穏に生きたいんだ。頭をクリアにして真っすぐ歩いていくことが大切だと思っている。何かに挑戦することを大きく喧伝する連中もいるけど、僕は生きていくこと自体がチャレンジなんだ。

今の生活に不満はない。生き急いでどうなる? 早く死にたいってこと?  意味はないよ。スピードを出し過ぎた車は事故を起こして壊れてしまう。焦る必要はない。時間を掛けて生きるんだ。急いで走ってストレスを感じて、人を信じることができなくなって……一体何を恐れているの?」

──何事も生き急がないと。

「生まれてきた誰もが死ぬんだ。それだけは皆、変わりない。何を生き急ぐ必要がある?」

──マナウスやリオデジャネイロに住んでいた頃と比較して、随分と成熟したと思いませんか。

「そんなことは決してないよ(笑)。生き方は同じだけど、今のように昔は断言できることはなかったね。僕はお金のために戦ったことはない。母が亡くなって家には食べ物もお金も無くなってしまった。ある女性の家の掃除をして生きていくことになった。彼女は『いくら欲しい?』と尋ねてきたけど、『食べ物が欲しい』と答えたんだ。僕はお金を得るために生きてきたんじゃない。生きるために生きてきたんだ」

──本来はバンクーバーでビビアーノの練習などを拝見させてもらって紹介しようということが主題の取材だったのですが、このような会話になるとは思っていなかったです。

「なぜか? 今日、ここにいるからだよ。君がバンクーバーに着いたばかりなのに、僕が住んでいるラングレーにレンタカーをドライブしてくると言うので、そんなことをさせることはできないと思った」

──そのためにわざわざ、私が宿泊しているホテルまで足を運んでくれたのですね。

「自分のことを第一に考えるのなら、家で君の到着を待つだけで良かった。しかし、東京から飛行機の長旅で疲れている友人に、酷い渋滞のなかドライブなんてさせたくなかった。人生は人を思いやり、人から思いやれるもの。自分のことばかり考えて、何かを手にしていくのは実は人を思いやれないことと同じで、何も残らない空っぽな人生になる。

今、日本は大変なことになっている。でも、しっかりと気持ちを落ち着けて、自分以外の人のことを考えていくと、危険は去り、また良い時代がやってくるに違いない。そんな日本でまた戦えることを楽しみにしているよ」

──Fight & Life 2011年10月号(Vol.26)より抜粋──

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