【DEEP124&Pancrase353】GPとKOPC、大一番=吉村兄弟。海飛「取るしかないき」&天弥「自信しかない」
【写真】対照的なようで、実はそうでない?? 天弥と海飛(C)MMAPLANET
海飛と天弥、和術慧舟會Heartsが誇る打撃兄弟。兄、海飛は15日(土)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP12で開幕するフェザー級GPの初戦で、SB日本ウェルター級王者の奥山貴大と対戦する。一方、弟の天弥は4月27日(日)のパンクラス立川大会=Pancrase353で、雑賀ヤン坊達也の持つライト級KOP王座に挑戦することが発表された。
Text by Manabu Takashima
勝ち負けを繰り返すようにキャリアを積み、フェザー級転向を契機に3連勝中の海飛。
デビュー2戦目の暴走DQ以外はキャリア4勝ながら、上位ファイターを倒してきた天弥。
ファイトも正確も対照的に見えるが、実は表裏一体の2人にこれからの切り開くための大一番を前に行ったアゼルバイジャン修行とフェザー級GP初戦とタイトルマッチについて尋ねた。
「アゼルバイジャンは腰でした」(天弥)
――吉村兄弟、揃っての大一番。海飛選手は15日、DEEP124でフェザー級GP一回戦となる奥山貴大戦。天弥選手はPancrase367、4月27日に雑賀ヤン坊達也選手の持つライト級KOP王座に挑みます。そんなお二人ですが、アゼルバイジャンへの出稽古に関して話を聞かせていただけますか。まず、期間の方は?
海飛 1月17日から2週間ですね。
――なぜアゼルバイジャンだったのですか。
海飛 Heartsではジムがお金を出してくれ、海外武者修行にいって良いというシステムができたんです。
――えっ、ジムがお金をだしてくれるのですか。
海飛 ハイ。
天弥 Heartsにサポート制度ができて、そのサポートを受けている選手が年に1度、国外でも国内でも出稽古を支援してもらえるんです。大沢(ケンジ)さんが頑張ってくれて。
海飛 モリトレ(森一好トレーナー指導)とかもも参加できるようにしてくれています。
――素晴らしいですね。そして再度、質問させていただきますが、なぜアゼルバイジャンだったのでしょうか。米国やプーケットでなく。
海飛 とにかく組みの練習をしたいと思っていました。去年、バンタオに2人で行って。凄く良い練習ができたので、8月の西谷大成戦のあとに、大沢さんにまた行きたいと伝えたんです。その時に大沢さんから「組みに特化してダゲスタンとかアゼルバイジャンに行った方が良くない?」と言う話がでました。そしてRIZINの柏木(真吾)さんにお願いして、アゼルバイジャンにいくことにしたんです。
――とはいえバンタオのヒックマン兄弟の弟フランクのレスリング指導は素晴らしいと思いますが。
海飛 凄く良かったです。今回はコーカサスとか中央アジアの国を知りたいという気持ちがあって、アゼルバイジャンにしたんです。米国的なレスリングを学べたので、コーカサス系のレスリングに触れたいというのもあったので。
――天弥選手もお兄さんの考えに賛同したと。
天弥 僕はキルクリフとかあっち系に行きたかったです。でも、そっちのレスリングを体で知ることも大切なんで。これから、そっち系とも戦っていかないのといけないので。知っておくほうが良いだろうなって。
――不安はなかったですか。
天弥 全然なかったです(笑)。
海飛 僕は言葉の面で、少しありました。以前に(カナダの)オンタリオにいたので英語は少し話せるのですが、その英語が通じないから。
――実際にどのような環境で練習し、何を経験できたのでしょうか。そして手応えの方は?
海飛 (ヴガール)ケラモフを指導するルスラン(アファンディエフ)・コーチのチームに合流しました。
コーチの住んでいるアパートの空いている部屋を借りて、MMAの練習をしてきました。1日二部連で、朝がMMAで二部練は全てフィジカルです。
フィジカルを毎日やるって、僕らにはなかったのでハードで最初の1週間は慣れることが難しかったです。技術的にも向こうのやりたい組みの考えが、良く分かりました。
――というと?
天弥 米国のレスリングは足に入る印象が強いですけど、アゼルバイジャンは腰でしたね。全部がボディロックで、そこが一番違うと思いました。ボディストレートを打つ軌道で、腹をクラッチしてきます。
海飛 あとテイクダウンを切られても、ずっと攻め続けます。正確にいうとボディロックなでの頭を下げないから、頭を押して切られることがない。練習はもう熱くて、喧嘩みたいになります。でも。練習が終わると凄く優しい。
――2週間で対応もある程度はできるように?
天弥 最初は投げられまくりました。そこからキープとパウンドは強いけど、極めはそんなにない。ホント、言えば乱暴です。パウンドは痛いし、ウザい。でも、それを我慢したらそんなに負けることはないです。レスリングでも全然、負けるとは思わないです。
海飛 知れば、そうじゃないというこいとですかね。想像を超えてはこないです。皆、幻想を抱きすぎているような気はしました。
――MMAとして両者の持ち味である打撃を生かすために、組ませずに殴るということはできましたか。
海飛 組まれないことはないので(笑)。だから組まれてもしょうがない。テイクダウンをされても、極めがないからパウンドの圧力をどうにかしちゃえば意外と立てると思いました。
天弥 抑え込みがね、緩い。日本人の方が繊細で、技術的は凄い。でも殺戮兵器にはなれない。要所は抑えても、殴れないことが多い。向こうのトップどころは荒くてもやってくるし、ちゃんとテクニックもある。
海飛 立ち際とか、一瞬でストレートが飛んできます。
――練習で思い切り打ち込んでくる?
海飛 きますね(笑)。基本、抜けない人が多くて。
ケラモフとか立ち際に腹を思いっきり蹴ってきますしね。もらえば落ちる……そんな緊張感はありました。
天弥 俺は楽しかった。こっちもガチガチにぶっ倒しに行くので。
海飛 天弥はいつもそんな感じで。バンタオに行った時も何人も落としていたので。性格が出ますよね、そこ。
天弥 やるならやるぞって。
――一番得られたものは?
天弥 自信ですね。やれるぞっていう(笑)。
海飛 僕も自信は凄くつきました。フェザー級にあげてフィジカルをやってきていたのに、瞬発のマックスパワーとか負けるんじゃないかと心のどこかでずっとビビッていました。でも、負けねぇなって思えるようになりました。意外といけるんスよね。
天弥 体の当て方とか。ケージの弾みまで利用して、テイクダウンをしてきます。打撃が喧嘩っぽいっての分かるけど、僕らはストライカーだからレスリングが喧嘩っぽいというのは分からなかった。でも、あの人達の荒っぽさを見るとレスリングが喧嘩っぽいというのを知りました。それがヒックマン兄弟のレスリングと大きく違っていたところで。
海飛 レスリングで打撃をしてくる感じで。アイツら組み技系だけど、絶対に喧嘩が強い。
「相手のことに気を使い過ぎても、強くなれない」(海飛)
――アゼルバイジャンでの練習を経験して、帰国後に活かせているものは?
海飛 僕が思ったのは、練習でも喧嘩にしにいくということ。練習は技術力を高めるもので、そういうことを僕は出していなかった。顔はまだしも、ボディやローで落ちるのはどうでもいいやって思うようにして。アゼルバイジャンでもバンタオでも自分は殴ってくるのに、こっちが殴ると「顔はやめろよ」ってヤツがいるんです。そういうヤツらをボディで落とせば、文句を言わせなくできる。相手に気を使うとか、どうでもいいやって。天弥はもともと、それができるんですよ。
天弥 顔を当ててきたら、当て返しますよ(笑)。
海飛 相手のことに気を使い過ぎても、強くなれないと思いました。
――それが許される練習環境は?
海飛 Heartsはもともと、それが許されているので。
――なるほどです。では10日後には試合が控えている海飛選手ですが、アゼルバイジャンに行くときにはもう試合は決まっていたのですか。
海飛 トーナメントに出場するのは決まっていました。3月ぐらいにあるということで、少しでも早くいこうと思って1月に行ったんです。
――それでもケガをするリスクはあります。
海飛 ハイ。でも、行きたいという気持ちの方が強かったです。そこは絶対に必要なモノだと思っていたので。
――天弥選手のタイトル戦が決まったのは?
天弥 僕は2月の中旬、終わり頃にかけてですね。話が二転三転して、4月に決まった形ですね。
――Road to UFCは頭になかったですか。4月だと、もうクローズされた後の試合になりますし5月に近すぎます。
天弥 そんな焦る必要はないかなって。
海飛 まだ20歳なんですよ(笑)。成人式に出たばかりの。
――そんな天弥選手と違い、海飛選手は順調とはいえないキャリアの積み方をしてきたので、凄く大切なトーナメント出場になります。初戦の顔合わせの決定は、奥山選手の枠に自ら入った形でした。
海飛 自分で相手を選びたかったので。中村大介選手か奥山選手かというなかで奥山選手にしました。
――本来は誰と一番戦いたかったですか。
海飛 高橋遼伍選手ですね。8人のなかで世間の評価が一番高いと思ったので。そこを初戦で食えば、一気に優勝候補になる。それに最初に潰したかったです。
――では中村選手でなく、奥山選手を選んだ?
海飛 中村選手のスタイルが苦手だからです。テクニシャンでフニャフニャしていて型にはまっていない。戦ったら勝ちます。でも、面白い試合にならずに判定になりそうで。それだったら奥山選手とやって、シュートボクシングの日本チャンピオンに勝って僕の打撃力をしっかりと評価してもらおうと。
――なかなか技量を推し量ることが難しい相手かと。
海飛 めっちゃ未知数です。なんか寝技ができるという話ですけど……僕よりできたとしても、そんな飛びぬけた強さがあるのかなって。それにMMAですしね。
――打撃は?
海飛 そこは僕の方が強い。打撃は絶対に僕ですね。
――海飛選手は以前の綺麗な打撃と比較して、最近では泥臭い打撃が出せるようになってきたように感じます。
天弥 フフフ。
海飛 バンタム級の最後の試合で計量を失敗して。その前にも平松(翔)選手に右ストレートで落とされています。アマチュアの時はイケイケで喧嘩っぽかったと思います。でもプロになって2戦目でポカをして負けて……そこから2年、3年と迷走していました。組みは伸びないし、打撃もいこうにもいけない。技術力だけで。だから、僕はHeartsでもミット・チャンピオンって呼ばれているんです。
――……。それは……身内なのに酷い。
天弥 アハハハハハ。
海飛 そういうレッテルも貼られていて、何をやっているんだろうって思っていたんです。
天弥 ベルトあげるよ。ミット・チャンピオンの。アッハッハハハハハ。
――弟なのに、ひど過ぎます。
海飛 ミットの形をしたベルトでも、貰おうか(笑)。まぁ、そういう迷走をしていた時期があって、挙句の果てに計量オーバーまでしてしまって……。そこでフェザー級に転向すると決めて、五明(宏人)戦まで4カ月ありました。プロになって2年間で10戦やって。そんな試合間隔が空いたのが初めてだったんです。あの時に、色々考えて……自分に嘘をつかないと決めました。
――嘘をつかないとは?
海飛 僕、テンションで誤魔化してしまうんです。疲れていてもテンションをあげると、やりきれるみたいな。でも、そういうのを全部やめました。もう誤魔化すのはやめて、自分をしっかりと見つめ直して。そうすることで変われるんじゃないかと思って。五明戦から西谷戦まで、3試合は試合間隔が長くて考える時間が多く取れたのも良かったです。
――その間に変わることができた?
海飛 ちょっとずつですけどね。五明戦でフェザー級でも、打撃は当たり負けしないと感じました。巽(大祐)戦は減量を失敗しても勝って。西谷戦は、もうコンディションが最悪で。でも露出があって強いと思われている選手を全部食って勝てたから、その辺でどんどんと自信がついてきました。そのうえでアゼルバイジャンに行って、「今の僕は負けねぇな」って思っています。アゼルバイジャンの選手たちも、僕の打撃には全然ついてこられない。そうやってちゃんと自信をつけてきました。
天弥 スパーをしていて、一番分かるんですよ。パンチの踏み込みとか変わったって。だからフェザー級GPは取ってもらわんと困る。
海飛 取らんわけないし、な。
――対してヤン坊選手とのライト級選手権試合に向けて、天弥選手の自信のほどは?
天弥 まぁ、自信しかないッスね。
――とはいいつつ、試合の時はしっかりと慎重に戦うところがありますよね。
「超精密に揃えるよ」(天弥)
天弥 アハハハハハ。
海飛 本当にそうなんですよ。コレ、書いてくださいね。僕のことをミット・チャンピオンとかいうけど、僕は表に出して、こいつは出さないだけです。裏で泣いていますから。めっちゃ、繊細やき。
天弥 超精密に揃えるよ。整える。
海飛 弱気になるとかじゃないんです。こう見えて、凄くちゃんとやっている。
天弥 言い聞かせるってことじゃないですけど、自信が一番大事で。チャンピオン・マインドで。
――ではタイトル戦に向けて、天弥選手もHeartsでガツガツと?
天弥 Heartsで当てるスパーリングはやっていないです。体格が違いますし。その分をネバークイットで週に2度やっています。
――あぁ、まさにアゼルバイジャンと同じ空気かと。
海飛 安藤(晃司)さん、凄いですね。僕も行かせてもらっていたのですが、ああいう練習をする方が良いと思います。
天弥 凄いっスね。安藤さんはでっかいし、強い。組みの圧力もあって、ガッチリやってくる。あの空気が好きなんです。菊入(正行)さん、ISAOさんと。デカい人とガンガンやれて、僕は嬉しいです。
海飛 自信があるっていうのは、100パーセントその通りだと思います。勝てる。僕も勝てると思っています。確かにヤン坊選手の右の当て感は凄いです。でも、裏を返せばそこだけで。僕らはそういう選手は得意です。僕らの打撃のスタイル――天弥は特に映像でしか見ていない人達は、一発でドカーンと倒している印象を持っていると思います。
でも、意外と精密で繊細なんです。天弥のセコンドについて、「5センチ、左に動け」とか言うことがあるんですよ。その指示にちゃんと従うことができる。もちろん、練習からそういうことをやってきています。
天弥 まぁ、そうッスね(笑)。当たって砕けろではなくて、当てられた方が砕けるファイトになる。でも自信がなくて、戦う試合なんてないですよ。自信しかない。
――しかし、最近のJ-MMAで見られることが多くなった、「このタイトルマッチは本当にその価値があるのか」という試合でなく、本当にタイトルマッチに相応しい顔合わせです。よしんばタイトルがかかっていなくても、楽しみな試合です。
天弥ちゃんと積んできたんで。アマ修、アマパン、ネオブラからランキング1位。全然、自信はあります。
「ケガをしても戦う必要がある」(海飛)
――ではこのタイトル戦の先は?
天弥 ダナ・ホワイト・コンテンダー・シリーズに出たいです。コンテンダーシリーズに出て、UFCと契約したいですね。そして、怪物揃いのライト級で戦っていく。
――そして、試合をすぐに控えている海飛選手。改めて意気込みのほどをお願いします。
海飛 短期間のハードなトーナメントで、ダメージを抱えたまま試合をすると思います。外傷だけでなく、内臓も。それも含めてトーナメント、そこは僕の得意とするところです。ワンデーでも、そうでなくてもトーナメント戦は試合の合間に気持ちが落ちるヤツが絶対にいます。そこの創り方。ケガをしても戦う必要がある。そのなかで、どういう勝つかが大切になります。
――勝つことと同時に強くなることも必要となるトーナメント、理想は残り2試合で誰と戦って勝利し優勝したいと考えていますか。
海飛 誰でも良い。1回戦で高橋遼伍選手とやりたかった。そこ以外は、誰も構わないです。