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【ADCC2022】66キロ級決勝 失点0で優勝。最軽量級世界一はベイビーシャーク=ジオゴ・ヘイス

【写真】全試合一本という派手な勝ち方ではないが、失点0も胸を張ることができる優勝だ(C)SATOSHI NARITA

9月17日(土・現地時間)&18日(日・同)にラスベガスのトーマス&マック・センターにて開催された2022 ADCC World Championshipが開催された。
Text by Isamu Horiuchi

ADCC史上、他のグラップリングイベントの追随を許さない最高の大会となったADCC2022を詳細レポート。第11 回は66キロ級決勝戦=ジオゴ・ヘイス×ガブリエル・ソウザ戦の模様をお伝えしたい。

ADCCルールに見事に合わせた戦いぶりで決勝進出を果たしたジオゴの相手は、昨年のWNOチャンピオンシップでマイキー・ムスメシからパスを奪って準優勝に輝いたガブリエル・ソウザだ。

ソウザは1回戦、以前ノーギでファブリシオ・アンドレイを肩固めで仕留めるなど、強烈な極めを持つフアン・アルバランカと対戦。

序盤強烈にギロチンで絞め上げられ、落ちたと勘違いしたレフェリーに試合を止められて一度は負けを宣せられた。が、抗議が実り試合は再開。終盤にスクランブル合戦を制して2点を奪取し、アルバランカが動いたところでバックを奪って5-0で勝利した。

2回戦は、初戦でAJ・アガザームに勝利したジェレミー・スキナーと対戦。開始早々にパスを奪ったソウザは、そのまま上から攻め続けて、最後はマウンテッド・トライアングルで圧勝した。

準決勝のソウザの相手は、昨年ノーギで3度当たってことごとく惜敗している天敵のパトことディエゴ・オリヴェイラ。パトは1回戦で北米予選王者のキース・クレコリアンをストレートレッグロックで極めて、道着を脱いでも極めの強さを見せつけた。

そのパトは2回戦で、前回優勝のケネディ・マシエルとのマッチアップに挑んだ。

深くタイトに組んだ外掛けから、ヒールのようにかかとをワキに引っ掛けず、上腕で足首をすくう形でヒザを捻るZロックを極め、絶好調で準決勝に上がってきた。

そして迎えた準決勝──ソウザは延長戦のレスリング勝負に持ち込んでパトを疲弊させ、レフェリー判定で勝利。ジエゴと同じく、ADCC世界大会初出場にして決勝進出を決めたのだった。


<66キロ以下級決勝/20分1R>
ジオゴ・ヘイス(ブラジル)
Def.3-0
ガブリエル・ソウザ(ブラジル)

両者の立ちの攻防がしばし続くと、客席から「ベイビー・シャーク・ドゥ・ドゥ・ドゥ・ドゥ~🎵」とがなりたてる輩が現れる。このベイビーシャーク・ソングは言うまでもなく童顔のジオゴのニックネームの元ネタであり、ここ数年幼児に大人気の歌だ。

そこで実況解説陣も「5歳以下のファンはみんなベイビーシャークを応援しているはずさ」「僕の6歳の息子も全選手のなかで彼が一番のお気に入りなんだ」とコメント。初出場の若手ブラジル人同士、北米の観客にはなかなか感情移入しにくい試合でも楽しみ方はある。

2分半経過した頃、ジオゴが素早く小内からドライブしてテイクダウンに成功。加点時間前なので無理せず下になったソウザが内ヒールを仕掛けると、回転して逃れるジオゴ。それに乗じてソウザが上を取ると、ジオゴも下にステイし、得意の右に絡むハーフを作った。

やがてジオゴがクローズドから左足に絡んで崩すと、両者足関節の取り合いに。どちらも極めさせず、やがて勝者はスタンドに戻った。

6分経過時に、ソウザがアームドラッグへ。すぐに反応したジオゴが逆にカウンターのドラッグ返しからバックに回る。

襷を取り、足を一本入れるジオゴ。しかしソウザも動き続け、体をずらして正対して立つことに成功する。ここで下になったジオゴは、立たずに下から左足に絡む。加点時間帯前なので、無理にスクランブルを仕掛けなくても良いという考えのようだ。

その後ジオゴは下から足を狙い、ソウザが対応する展開が続く。ジオゴがトーホールドを仕掛けると、ソウザが回転して逃げて上下が入れ替わる。やがてダブルガードからお互い足を狙い合う状態となり、試合は10分を経過。加点時間帯に入った。

しばらくすると両者とも立ち上がる。様子見段階は終わり、世界一の座を賭けた本格的なポイント戦がここから開始だ。

お互い譲らない攻防が続くなか、ジオゴが一瞬のアームドラッグから小内につなげてソウザを倒す。本戦と違いすぐに距離を取り、背中を向けて立とうとするソウザ。ジオゴすぐその背後に回る。

ソウザの背中に登ってシングルフックと襷掛けを作るジオゴが、両足フックを狙う。何とか手で足を振り払うソウザだが、ジオゴは襷を双差しに切り替えてソウザのワキを開けさせ、ついにフックを入れて3ポイントを先制した。

残り7分で大きなビハインドを背負ってしまったソウザは再び手を使ってジオゴのフックを解除すると、腰を上げて頭を下げてジオゴを落としにかかる。頭で倒立するような状態でしばらく粘っていたジオゴだが、無理せず下に。得意の右に絡むハーフを作った。先制点を奪った以上、あとは失点せず戦ってゆけばいい。

ジオゴのハーフの前に攻め手を作れないソウザは、一旦離れてのパス狙いへ。が、ジオゴは柔らかい動きで対応。逆に下からソウザの左足に絡んで崩しては、足狙いを見せる。

深い50/50を作ったジオゴは、内ヒールを仕掛ける。特に極める必要はなく、相手に防御を余儀なくさせ時間を稼ぐのにきわめて有効な手だ。ソウザは立ち上がって組まれた足を押し下げて解除するが、ジオゴはインバーテッドからまたしても足を絡めてゆく。

その後、ソウザは横に回ってのパスや上から飛び込んでのバック狙いを見せるが、その度にジオゴは下から柔らかい動きで危なげなく対処を続けた。終盤も足と両腕のフレーム使ってソウザにパスのチャンスを与えないジオゴは、残り数秒のところで距離を取って素早く立ち上がる。ここでソウザも万事休すと悟ったか、最後の追撃はせず。弱冠20歳のジオゴ・ヘイスが初出場初優勝の快挙を成し遂げた。

ケニー・フロリアンから勝利者インタビューを受けたジオゴは、童顔の見た目よりさらに幼い声で(たまに指摘されることだが、ジオゴの英語はUFC女子バンタム&フェザー級王者アマンダ・ヌネスのそれをぐっと拙く少年ぽくした印象だ)、「最高の気分さ。夢がかなったよ。ここまでの道のりは楽じゃなかった。僕たちはみんな身を練習に捧げてきたんだ。チームメイトのファブリシオやミカ、そして師匠のメルキ・ガルバォンがいなければ僕はここにいない、彼なしに優勝など不可能だったんだ。全てを僕らに捧げてくれた」と語った。

その後メルキがマットに登場して、ジオゴとハグ。愛弟子の快挙に感涙にむせぶ師の横で、ジオゴは「この人は僕の父であり、友人であり、コーチであり、師匠だ」と改めて想いを語り、感動のエンディングとなった。

今大会の4試合、一切の失点をせず、ことごとく後半のレスリング、スクランブルの攻防で差を付けて勝ち切ったジオゴ。テイクダウンされてもポイントを許さず立ち上がり、徐々に相手を疲弊させてゆくレスリングの持久力で上回った形だ。

そんな戦い方を可能にしたのは、柔らかい動きで体力を消耗せずに、相手に得点を奪う隙を与えない優れたガードワーク、そして各局面で不要なリスクを犯さず、試合に勝つための最適な方法を選び取ることのできる高いファイトIQがあるからこそだ。

世界最高峰の選手が集ったこの最軽量級にて、ADCCルールで勝つためのスキルを、技術的にも精神的にも最も高いレベルで持ち合わせていたのが、ジオゴ・ヘイスだったといえるだろう。

なお3位決定戦は、延長までもつれ込んだ末、パトことディエゴ・オリヴェイラがジョシュ・シスネロスからペナルティ1差で勝利。こちらも初出場でのメダル獲得となった。

66キロ級リザルト
優勝 ジオゴ・ヘイス(ブラジル)
準優勝 ガブリエル・ソウザ(ブラジル)
3位 ディエゴ・パト・オリヴェイラ(ブラジル)

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