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【Special】月刊、柏木信吾のこの一番:6月:プロハースカ✖テイシェイラ「ダラウェイに勝った時…」

【写真】死力を尽くした激闘。UFC世界ライトヘビー級王者をいかに見出し、日本に招聘したのかを柏木さんが話してくれた (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、柏木信吾氏が選んだ2022年6月の一番。12日に行われたUFC275よりイリー・プロハースカ✖クローバー・テイシェイラ戦について語らおう。


──柏木さんが選んだ6月の一番は?

「ここはイリーとテイシェイラの試合で行かせてください」

──それはもう思い入れタップリのイリー・プロハースカですし、ぜひともお願いします。

「これはもう……実は僕、この試合が行われた時、ラスベガスにいたんです。メイウェザーの会見前で土曜日の夜だし、関係者の人たちと会食をしていたんです。で、テーブルの下で携帯を使ってUFCをずっとチェックしていました(苦笑)」

──アハハハハ。

「もう早く帰りたくてしょうがなくて。でも、その夕食中にテイシェイラとプロハースカの試合の時間が来てしまって。やべぇ、どうしようって……。で、仕事の話中だったのに手を挙げて『スミマセン。メチャクチャ勝手なことを言って良いですか? 今、RIZINで育った選手がUFCでトップになるかどうかというタイトル戦を戦います。皆さん、良ければ一緒に視ないですか?』って」

──それ言っちゃったのですか(笑)。

「もう言うしかなくて(苦笑)。で、ベガスのカジノにあるステーキハウスで皆で視たんです」

──おお、良い話です。やはり、ここは見逃せるわけがないですよね。

「皆も『良いよ、視ようよ』ってなってくれて(笑)」

──私も正直、UFCのPPV大会で日本の専門メディアが写真撮影をできるなんて──もう14年振りとか、15年振りでした。そこであの激闘をケージサイドで撮ることができて、改めてUFCの凄まじさを思い知った次第です。

「豪華なラインナップのメインに相応しい試合でした。まさに泥試合で(笑)。

UFC、最高峰のトップ中のトップがあの泥試合を見せてくれた。凄まじいですよね。P4Pではないです、2人とも。でも、あれこそMMAだっていう全ての要素を視ることができた試合でした。

イリーのことを知らない、いちカジュアルファンが視てもあの試合は面白かったはずです」

──そのイリーを発掘し、RIZINからUFCに飛び立たせた。それが柏木さんであって。そもそも、イリーを発掘したきっかけはどういうことだったのでしょうか。

「2015年のRIZIN旗揚げの際に世界各国から選手を集めようということになり、当時協力してくれたプロモーターの推薦選手がいました。8人トーナメントをするなかで、7人はアッサリと決まりました。そして残りの1人を探している時に、ガツンとイリーがいたんです。

GFCというチェコの大会を視聴して……。今はもうヘビー級って世界的に手薄で、少しでも名前のあるファイターはいずれかのプロモーションと契約をしています。でも、当時はフリーランスの実力者が結構いました。

実はイリーだけでなく、色々な選手をチェックして。最初に目についたのがアレクサンドル・ラキッチだったんです」

──おお、オーストリア人で現UFCファイターですね。

「ハイ。その時、ラキッチはヒザを負傷していて手術をする直前だったんです。だから試合ができなくて。で、その次に当たったのがイオン・クテレバでした」

──おお、クテレバもUFCライトヘビー級で活躍中のモルドバ人選手です。いやぁ、本当に目の付け所が確かです。

「いや、結構色々な選手に声を掛けたんですよ。やはりヨーロッパに良い選手が多いなと思っていて。それが試合をチェックしていたら、いたんです。メチャクチャ良い戦績を持っているチェコ人ファイターが。

イリーを見つけた時は『こんな選手、埋もれていたんだ』って素直に嬉しかったです。で、すぐにコンタクトを取り、迷う間もなく契約書を送りました。もうトントン拍子に決まりましたね」

──初来日ではヘビー級時トーナメント決勝でキング・モーに敗れはしましたが、リベンジしてライトヘビー級王座奪取。イリーの挙げた11勝1敗という素晴らしい成績は柏木さんにとって期待通り、それとも期待以上だったのでしょうか。

「僕の中では期待通りというか……申し訳なかったです。彼が求める相手を連れてくることができなかったので。石井慧、ワジム・ネムコフに勝って、キング・モーには負けたけど、リベンジも含めその後は負け無しでした。

そうですね……ちょっと違っていましたね。強さを求める姿勢からして。だから、変な意味で対戦相手を選ぶんです。『もっと強いヤツはいないのか』と。僕のなかでは、別の意味での悩みでした。

実際、対戦相手を選ぶ選手が少なくないです。その中で、イリーだけは全く違うベクトルで厳しい要求をしてくる。それがイリーであり、イリーのチームでした。相手の名前を伝えると、いつも『もうチョット強い相手はいないのか?』という返答なんです。

もう僕の立場からすると2017年から2018年になると、UFCとBellatorだけでなくPFLまで出てきているので、上の方の選手はほぼほぼフリーじゃないから対戦相手を見つけるのが本当に難しくて」

──その通りですね。それでもブルーノ・カッペローザ、ブランドン・ホールジー、ファビオ・マルドナド、そしてCB・ダラウェイという面々を招聘しています。ケージだったら、事前取材からしっかりとしたい選手ばかりです。

「ホント、そこを分かってくれる人が記事を書いてくれないし……」

──スミマセン(苦笑)。そして、プロハースカは全員を倒してしまいました。

「一蹴しちゃいましたよね。ダラウェイを2分も掛からずKOしちゃうんですよ。誰もが納得してくれたと思いますけど、僕のなかではもう無理でした。あれ以上の相手は呼べない。あそこで僕は白旗を挙げました。

だから変な話ですけど、ミック・メイナードに話を振りました。もうUFCだろうって……RIZINに留めてもイリーのためにならない」

──あぁ、業界が柏木さんみたいな人たちばかりなら……と思ってしまいますよ。

「いえいえ。でもミックもYES. YESと2度、しかも全て大文字で返答してきました(笑)」

<この項、続く

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