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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。オマリー✖モウティーニョ「オマリーの穴」

【写真】非の打ち所がない勝利に見えたのだが…… (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たショーン・オマリー✖クリス・モウティーニョとは?!


──注目のショーン・オマリーが、異様にタフなクリス・モウティーニョをなかなか倒せずとも、圧倒して最後は3RにTKO勝ちを収めました。

「MMAグローブをつけたキックボクシングになっていました。オマリーが下がり、モウティーニョが追いかける展開でした。間は常に下がった方が有利になります。ここで話してくるなかで追っている方の質量が高かったのは、私が覚えている限りタン・リーに負けたときのマーチン・ウェンに続き、このモウティーニョが2人目です。

なぜモウティーニョは質量が高いか、パンチを出さないからなんです。殴るため、蹴るためじゃなくて、ただ前に出ているから質量が高い。殺傷能力が高いと、オマリーが逃げて下がっていることになるので、出ている方の間になります。でもモウティーニョは何もしない。ただ前に出て、オマリーは下がって打っている。けど質量はモウティーニョが高いという変わった試合でした。

と同時に、あの何もしないで前に出ている状態だとモウティーニョは、オマリーのパンチが見えていたはずです。見えている打撃は、見えない打撃と比較すると我慢できます。

見えている打撃は1トンまで耐えることができても、見えない打撃はグラムでやられると言われています。だから、後ろから殴るパンチはそれだけ危険だということです。ここでいう『見えない』というのは視覚だけでなく、反応できないということが含まれています。ハンドスピードの速さだけを言っているのではなく、腹だと腹筋を締めることができない、顔面パンチへの反射ができていない。

それが見えていないということで、モウティーニョはきっと見えていたと思います。ただし、それを顔面に受けてやる人は初めて見ました(笑)。オマリーはそこで消耗してしまっていました。いわゆる打ち疲れです。試合後の息の粗さもマラソンの後のようでした。まぁモウティーニョも全く何もしないということではないので、オマリーはもう少しタイミングを考えて打つ必要があったかと。策はなかったのか──簡単にいうと、カウンターは取れなかったのかということですね」

──あれだけパンチを当てても、パンチは良くなかったと?

「モウティーニョの根性、打たれ強さが着目されがちですが、オマリーのパンチは良くなかったです」

──あれだけ当てているのに、ですか。

「モウティーニョが本当に手を出さないということもありましたが、オマリーはサークリングが悪いです。言ってみれば正面はサンチン、横だとナイファンチなのですが、彼のサイドステップから回る動きは非常に良くなかった。だからモウティーニョも追うことができました。

ここまで素晴らしい勝ち方をしてきたオマリーですが、前に出続けてくる相手に対して穴があることを露呈しましたね。この場合は互いに打ち合いになっても、自分が前に出ることが必要になってきます。モウティーニョはガードが、もの凄く悪くて前に出るだけなので、オマリーも前に出て打ち合いに持ち込めばカウンターも当たっていたはずです。

こういうと何ですが、米国のMMAファイターは殴れて、蹴ることができるのに、その上下のバンラスを非常に悪い。オランダ、ブラジル、タイの選手と比べると上下のバランスはとても悪いです。MMAなのに使うパンチが、一般的──普通のボクシングのようになっていて。

結果、MMAグローブをつけたキックボクシングをしているけど、距離はキックボクシングではない。組んでも切られるから組まないということが根本にはありますが、現状MMAはボクシングをしない距離、離れていてお互い核心に触れないでパンチと蹴りを出し合うことが主流になっています。

だからこそ、組みに対応できているのか。そこは本当に研究しないといけないです。ボクシングやキックができて、あの距離にいるのか。寝技ができるのに、寝技にいかないのと同じで」

──それでもショーン・オマリーは倒しています。

「そこは彼はずっと倒すつもりで戦っているというのはあるかと思います。どんな相手でもそうなのでしょう。オマリーが弱いわけじゃないし、素晴らしく強いです。でも、彼を倒す策がないわけでないことが、今回の試合で見えたと思います。

オマリーが常に持っている、倒すという想いもいつか『コイツは嫌だ』と思う時が来る。そうでなくてもピョートル・ヤンやジョゼ・アルドと戦うと、オマリーの打撃と真っ向から勝負しないで戦うということはできるかと思います。駆け引きを使える。ヤバイ攻撃を持っている相手に対するマネージメント能力が彼らにはあります。

最後まで倒しにいくオマリーは勝負に対し、清いと見るのか。マネージメント力がないと見るのか。上にいけばいくほど、強さだけでは勝てないですからね。ただし、そこに行くまでは倒す力を見せないと、チャンスがもらえない。それがUFCです。

だってオマリーは15位に入っていないんですよね……つまりはUFCのトップ同士の試合は、強いのは当たり前。そういう強い選手同士が戦って、勝つには何が必要となっているのか。

人智ではどうにもならないところで、天がどう決めるのか。それぐらいのモノだと思います。UFCのトップ同士の戦いというのは。だからオマリーが、このままの戦いをその時にできれば本当に凄いことです。凄いことですが、そんな人はなかなかいないはずです」

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