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【BDP03】強さと手堅さを見せたエルベース・サントス、決勝でムニス兄弟・次男のアンデウソンに敗れる

【写真】若手中心、彼らが本格的に柔術界が活動再開した時に黒帯の中心にいるかもしれない(C)BIG DEAL PRO

10日(土・現地時間)、ブラジルのフロリアノポリスにて、プロ柔術団体Big Deal Pro の第3回大会が行われた。まずは大会の目玉であるヘビー級GPの模様をレビューしたい。


若手中心のメンバーにあって、実績と知名度では頭二つほど抜けているエルベース・サントスは一回戦で、フィリッピ・ペナの黒帯ギリャルメ・ランベルトゥチと対戦した。

場外ブレイク後の再開時の体勢をめぐって議論となり、不満な顔をしながらもランベルトゥチの主張するラッソーグリップを作らせたサントスは、再開後すぐに豪快にそれを引きちぎってみせる。さらに右に動いてのパスからバックを奪い、フェースロックでアゴの上から強烈に締め上げてタップを奪って圧勝した。技を離すと相手を両手で押し除けたサントスは、儀礼的な握手だけ交わしてマットを去った。

続く準決勝でサントスは、対抗馬の1人と思われたワレシ・コスタとの対戦に。コスタ得意のスタースイープで体勢を崩されながらも、ストレートフットロックでアドバンテージを奪うも──結局上を許して2点を献上してしまう。

この時にサントスが下から50/50で足を絡めて、シーソーが成立。最後に上を取った方が勝ちという条件下で、両者は上下を入れ替え続けた。

残り40秒のところで、相手に背中を向けるようにして上を取ってリードしたサントスは、なんとか上を取り返したいコスタの肩口を押さえてその動きを制すると、自らはターンして足の絡みを解きながら向き直ることに成功。そのままコスタの上体を押さえつけてニースライスパスの形を作った。

最終局面で決定的に有利な状況に持ち込んだサントスは、舌を出してバッドボーイスマイルを決める。残り10秒、最後の望みを懸けて下から煽ろうとするコスタだが、サントスは難なく上をキープして試合が終わった。

世界レベルの相手との神経戦を、強靭なベースと見事な体捌き、冷静な状況判断を合わせた素晴らしい動きをもって制したサントスは、ジャケットをはだけて上半身を露出させアピールした。

こうしてサントスは1回戦、準決勝とバッドボーイぶりは発揮しながらも、それを暴走させず柔術競技における強さとプロとしてのアピールに昇華させ、決勝進出を決めた。

<ヘビー級GP決勝/8分1R>
アンデウソン・ムニス(ブラジル)
Def.0-0 A1-0
エルベース・サントス(ブラジル)

サントスを決勝で待っていたのは、イエタン・コスタの代わりに出場したアンデウソン・ムニスだ。兄にアレッックス、弟にエリキを持つムニス兄弟の次男は、2019年ムンジアル茶帯無差別級において、弟エリキとクローズアウトを達成している有望株だ。

長い手足を活かした、弟に劣らぬ切れ味のスパイダーガードとラッソーガード、さらにラペルガード、シングルレッグエックス等も用いた多彩なスイープの仕掛けを使いこなし、一回戦、準決勝を突破してきた。

サントスは今年のBJJ Stars 05のトーナメント1回戦でエリキ・ムニスと対戦、オープンガードを攻略できず敗れているだけにアンデウソン・ムニスも決して相性の良いタイプではない。

試合開始後、引き込みを狙うムニスに対し、サントスは素早いテイクダウンのフェイントを見せる。が、ムニスは一瞬だけサントスの体を掴みながら座りながら、引き込むことに成功する。サントスは瞬時にムニスの右足を掴んで横に捌いてのパス狙いへ。が、ムニスもすぐに反応して正対してみせた。

ムニスは、立っているサントスの右手首を左で掴む。これが彼のオープンガードの基点となる形だ。そこから右手でサントスの足を掴んで崩しにかかるが、強靭な足腰を持つサントスはベースを保つと、ムニスの右足を捌いて素早いトレアナ・パスへ。ムニスは、回転して距離を取った。

残り5分。右ヒザをついた姿勢を取ったサントスに対し、ムニスは内側から右足を入れてサントスの左足に絡めるシングルレッグエックスを作るが、サントスのバランスは崩れない。やがてムニスは50/50を作るが、それでも展開は動かず。座って胸を張ったサントスが絡まれている左足を下げると、ムニズはクローズドガードを作った。

ここでも両者とも仕掛けず、お互いに2度目のペナルティが与えられる──展開を経て残り1分に。両者揃って、終盤の勝負所でポイントを奪って勝とうという腹積りか。

残り1分。立っているサントスに対して、ムニスは左足でサントスの右足にデラヒーバで絡む。相変わらず強靭なベースでバランスを保つサントスだが、左手でフックを補強したムニスは、さらに右手でサントスの右手首をクロスグリップで掴んで引き寄せると、そのまま横向きに起き上がるようにサントスを後ろに崩すことに成功する。

尻餅を付かされたサントスはすぐに体勢を立て直して立ちあがると、ここで場外ブレイク。そしてレフェリーはムニスにアドバンテージを与えた。

残り10秒で差を付けられてしまったサントスは、テイクダウン狙いから引き込んでのスイープを狙うが、ムニスを崩すことはできず試合終了。

勝負所において、自らの持つ多数の攻撃手段の中で最適なものを選び、確実にポイントを取る強さを見せた若きオープンガード職人のアンデウソン・ムニスが、見事なGP優勝を決めた。

準決勝では見事に残り10秒で相手を出し抜いたものの、決勝ではムニスに上を行かれてしまったサントスは、試合終了と同時にムニスをハグし、その頬にキスをして勝利を祝福し、内に秘めた凶暴さをスポーツマンシップで制御してみせた。

6月のエリキ戦に次いで、道着を利用したオープンガードゲームへの対処という課題は残ったものの、初戦と準決勝で見せた圧巻の極めと体捌きは、この怪物が将来世界王座奪還を果たす期待を抱かせるのに十分なものだった。

一方、見事にビッグネームを倒して強豪揃いのGPを制したアンデウソン・ムニス。各種オープンガードから多彩な仕掛けを持ち、勝負勘に秀でていることに加え、重量級離れしたスピードとキレを誇るサントスのトレアナ・パスにもしっかり対応する等、防御力も出色だ。

将来、弟のエリキとともに世界柔術の黒帯無差別級を兄弟クローズアウトという、前代未聞の偉業を達成する可能性すらありそうだ。

また、そのムニスと準決勝で対戦し、ひとまわり小さい体格ながら互角の攻防の末にレフェリー判定で敗れたガブリエル・エンヒッキ、サントスに準決勝であと一歩まで迫ったワレシ・コスタ、そのコスタに1回戦で逆転負けしたものの、序盤にバックを奪ってみせたマーカス・ヒベイロ等も、このトーナメントで輝きを見せた。

世界レベルの重量級の新鋭が次々に登場するブラジルの層の厚さを改めて感じさせる、今回のヘビー級GPだった。

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