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【Bu et Sports de combat】MMAを武術的な観点で見る。ジェンキンス✖パーマー「レスリングで先を取る」 

【写真】レスラー同士、「レスリングとMMAは違う」というパーマーの言い分は通らなかった…… (C)PFL

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──PFL2021#01におけるバッバ・ジェンキンス✖ランス・パーマーとは?!


──NCAA時代にレスリングではジェンキンスに負け越していたパーマー。しかし、MMAの実績では上で「これはMMA、レスリングとは違う」と言っていたのですが、そのレスリングで遅れをとるとMMAとしての強さは全く見せることができなかったです。

「そういうつもりで、パーマーはレスリング勝負とは考えていなかったのかもしれないですね。対して、ジェンキンスは完全に重心がテイクダウン狙いで、かつパンチも出せるというモノでした。

組んでからバックに回り、そこからのパンチはピンポイントで素晴らしいものでした。フォークスタイルのクラッチをしてはいけない部分が、そのまま生きて自由になっている片手で殴りつける──教科書のようなパンチでした。

ジェンキンスはレスリングだけでなく、スタンドのパンチも強かったし蹴りも良かったです。とはいえ上と下が繋がるという我々が理想としている攻撃ではなかったのですが、レスリングでイニチアチブを取っているから、パンチと蹴りがバラバラでも構わない。青木選手のミドルやパンチが、サブミッションがあることで先が取れているように、ジェンキンスは迂闊な蹴りがあっても、パーマーがそれをキャッチしてもレスリング勝負で負けないという戦いができているので、パーマーが先を取ったことにならない。

正直、ジェンキンスはパンチ、組み、蹴りのトランジッションの部分で隙はあります。

パンチはパンチ、組みは組み、蹴りは蹴りという風にバラバラで。あのバラバラの戦いを日本人選手が、外国人を相手にやっても絶対に通用しません。それでも、あの蹴りを一方的に使えるというのは、絶対の自信がジェンキンスにはあったのでしょうね。それがレスリングで」

──「これはMMAです。キックではない」とか、「この試合はレスリングでなくMMA」という意見、MMAをある程度以上に消化している選手同士の戦いで通用しないで、得意分野同士で強い方がMMAでも強いということになるのでしょうか。

「これはMMAで、〇〇ではないという理屈は、MMAファイター同士では信憑性はないと考えます。MMAを知らない相手に、MMAファイターが言うのは通ります。そもそも、もう10年も前にMMAファイターはK-1のリングでK-1ファイターとやり合えていたし、ベン・アスクレンは今でもレスリングが強いでしょう。柔術がベースのMMAファイターが、今もノーギや柔術でも強いように。

そうしたら、これはMMAだっていう理屈は通りますか? それにどの競技にもマネージャーという選手がいます」

──マネージャー……ですか?

「ハイ。マネージメントで勝つ。打撃の試合もKOじゃない、マネージメントで勝つ。グラップラーでも極めなくて、マネージメントで勝つ。3Rや10分の戦いをマネージメントして勝つ。その競技でマネージメントで勝ってきた選手は、MMAに転向してマネージメントができなくて勝てなくなるということもあります。

パーマーはレスリング軸で、MMAでマネージメントができていたから、これまで勝ってきたけど……レスリングで上回るジェンキンスに対し、MMAのマネージメントができていなかった。どこで差をつけるのか、それはMMAという競技のなかに引きずり込むこと。そしてマネージメントでゴチャゴチャにする。それがパーマーのやるべきことだったのですが、何もできなかった。

その原因は試合だけでは分からないです。体調かもしれないし、精神的な問題かもしれない。ただビビっているのは明白でした。レスリングというか、パンチにビビっていた。過去の実績に関係なく、あの試合で起こった現象面でみれば、パーマーがそれだけ強い選手だということすら分からないぐらい──開始早々からバッバ・ジェンキンスの間でした。質量でジェンキンスが上で、間もジェンキンスだった」

──レスリングで遅れをとっても、MMAなのだから打撃で上回って間を取り、質量で上回ることができるかと思うのですが。

「あのオーバーハンドですね。あれは勢いが良かった。空振りでも、当たったら凄いモノだと思います。武術的にMMAを見るということは、戦術的に見るのと近いものがあります。ただし、戦術と戦略は違います。パーマーはこの試合に関しては、戦略はなかった。何かやろうと相手の動きを見せ、戦術は変えようとしていましたが。

私は武術家であると同時に、ストラテジスト(戦略、方針を立案する専門家)でありたいと思っています。ストラテジーを考えるうえで、一番大切なことは何だと思いますか」

──自分が不利なところを想定することでしょうか。思い通りにいかないときに、どうするのか腹積もりをし、打開策を描いておく。

「つまり、一番大切なことはザックリいって予想なんです。それも具体的な。相手の質量が強いか弱いかで、立てる戦略は違ってきます。そこをパーマーは立てていなかった。もしくは立てそこなった。相手の方が質量が高い時の戦いができていなかったです。『こんなに圧力が高いと思わなかった』と試合後に言う選手がいます。つまり、自分の質量が小さきの戦いの準備ができていないということです。

しっかりと局面を考えて、有利・不利のどちらの場面でもクリアにして、試合に臨んでいたのなと思いました。それができていなかったから、ここまで3年間負け知らずのパーマーでも一方的に負けてしまった──そう結論づけることができます」

■視聴方法(予定)
4月30日(金・日本時間)
午前6時30分~Official Facebook

■ PFL2021#02 対戦カード

<ウェルター級/5分3R>
ローリー・マクドナルド(カナダ)
カーティス・ミランダ―(米国)

<ウェルター級/5分3R>
レイ・クーパー3世(米国)
ジェイゾン・ポネ(フランス)

<ウェルター級/5分3R>
ジョアォン・セフェリーノ(ブラジル)
グレイソン・チバウ(ブラジル)

<ライトヘビー級/5分3R>
エミリアーノ・ソルディ(アルゼンチン)
クリス・カモージ(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
アントニオ・カーロス・ジュニオール(ブラジル)
トム・ローラー(米国)

<ウェルター級/5分3R>
マゴメド・マゴメドケリモフ(ロシア)
ジョアォン・セフェリーノ(ブラジル)

<ライトヘビー級/5分3R>
ヴィニー・マガリャエス(ブラジル)
ジョーダン・ヤング(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
セザー・フェレイラ(ブラジル)
ニック・ローリック(米国)

<ウェルター級/5分3R>
サディボウ・シ(スウェーデン)
ニコライ・アレクサヒン(ロシア)

<ライトヘビー級/5分3R>
ダン・スポーン(米国)
マールシン・ハムレット(ノルウェー)

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