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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。フレムド✖オリヴェイラ 軽薄なカーフ合戦

【写真】決してトップクラスではない。技術的に上回っていたオリヴェイラをフレムドが左フックからパウンドで下した(C)LFA

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──LFA98におけるジョシュア・フレムド✖ブルーノ・オリヴェイラとは?!


──LFAのメインイベント。6勝1敗のジョシュア・フレムド✖8勝2敗のブルーノ・オリヴェイラのミドル級でした。

「オリヴェイラ──結果的に負けた選手ですが、構えて握った瞬間に拳(けん)に質量は凄くありました。あの選手はパンチも強いし、姿勢も良い。フレムドの攻撃も良く見えていましたしね」

──互いが……こういうと何ですが、妙にカーフを使っていた試合に見えました。

「ハイ、良いモノを持っているのに軽薄なカーフ合戦になっていましたね。ついこの間まで、存在していてもここまで使われていなかった攻撃です。ただし、歴史は繰り返すといいますか──1975年に行われた極真空手の第1回世界空手道選手権大会では日本人選手は皆、カーフを蹴っています」

──フルコンタクト空手は顔面への突きがないので、近い距離での下段が週流と理解していました。

「もともと極真空手は顔面への攻撃を想定していたんです。それが試合で顔面への拳の攻撃がないものだから、もっと近づけるという風になったんです。だから顔をひっつけたような距離から、足を振り下ろす──落とす蹴りで、後ろ足を蹴るようになったんです。

顔面を想定して稽古していた道場の人間は、そんな蹴りが使われるとは想像もしていなかったのです」

──それは柔術でいえばテイクダウンもパスもなく、バックを取ってしまうベリンボロが生まれた背景と近いかもしれないですね。

「……。でもね、半年後には受け返しが成立し、当たり前の技になっていました。だからMMAでも熱病のようにカーフキック、カーフキックと今は言われていますが、すぐに薄まっていくのではないかと思います。そもそも寝技で勝敗がつかなくなり、テイクダウンも簡単でなくなかった。だからフレムドとオリヴェイラに関してはガチでボクシング、ガチでレスリングができずに、遠い距離の中途半端なキックボクシングで蹴りを出す。

おっかなびっくりの蹴り合いがカーフキックになったという風に見えましたね。堀口選手のようにパンチにつなぐことができるカーフを使える選手は別ですが、フレムドといオリヴェイラの試合はそうではなかったですね」

──オリヴェイラに関しては、なぜあれだけ綺麗に蹴ることができるのにカーフに拘る必要があるのかと思いました。

「その通りです。オリヴェイラは構えも綺麗で、蹴りも綺麗でした。さらに遠間からのジャブ、ワンツーをもっと見たかったです。でも、それができないのは自分のパンチを信頼していないからでしょう。あのジャブを持っているのだから、セコンドもジャブで試合を創るように指示をすべきだと思いました。

いずれにせよジャブの差し合いのなかで、オリヴェイラはフレムドのジャブを嫌がった。イニシアチブを取っているのは本人、それなのに嫌がって……ジャブを出そうとして嫌がり、でもやっぱり行こうという風に前に出て左クロスを合わされてのKO負けです。

あの時、明らかに躊躇してから前に出ていたんです。その時点で質量はガクンと落ちていました。質量は心の在り方に反映するので。それが全てというぐらい、気持ちの在りようと質量は関係してきます。ジャブの突き合いでフレムドのジャブを嫌がった、嫌いさえしなければ、間はオリヴェイラでしたしクロスを貰うこともなかったでしょう」

──勝ったフレムドに関してですが、序盤はオリヴェイラの蹴りへの対応で精いっぱいになっている風にも見えました。

「だと思います。テイクダウンを仕掛けても、直ぐに立ち上がられましたしね。今のMMAに多い、組みも執拗さがなく淡白に離れる。ともすれば、どんどんと淡白、薄味になっています。つまり試合のなかでビジョンが見えない。どう倒すのかという部分で。オリヴェイラでいえばあれだけ綺麗なジャブを打つことができているのに、ですね。

最後は内面だけが先に行っていて、非常に危険な入り方でした。外面は残っているのに、中だけ先に行っていました。シートベルトをしてないで、ぶつかった時に車から飛び出すように。

対してフレムドも見えてはいなかったのですが、質量は下がっていなかったです。腰が引けているからこそ、オリヴェイラは構えも攻撃も綺麗だったのでしょうね。フレムドは、あの一発当たった後の容赦ない鉄槌を見ても分かるように、何が何でもという姿勢がありました。そういう血が、彼を勝者にしている。先を取られているのに、跳ね返す試合ができていました。オリヴェイラよりもフレムドの方が、ここから成りあがってやるという気持ちが見られた試合でしたね」

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