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【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その参─ミゲール・バエサ×佐藤天「天の続きを見たい」

【写真】えげつない領域に入りつつあるUFCウェルター級戦線で、佐藤天を見続けたい (C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第3 弾は28日に開催されたUFC ESPN18からミゲール・パエサ✖佐藤天の一戦を語らおう。


──11月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目は?

「佐藤天ですね、パエサと戦った試合です。あの試合は色んな人が色々なことを言っていて……。左を完封された──みたいな意見を聞きましたね」

──結果的にそうなるのかしれないですが、パエサは相当に警戒しているように映りました。

「ハイ、警戒されると試合にならないという見方でした。ただ、僕はちょっと違っていて。やっぱり、佐藤天は強くなっています。あれだけプレッシャーを掛けることができていたんだから。

手数が少ないとかっていう意見もあるけど、2戦目のベラル・モハメッドと戦った時も圧力を掛けているのは佐藤天なんですよ。今回も手数は少なかったけど、プレッシャーを掛けてイニシアチブを取っているのは佐藤天だった。

喧嘩っていうと語弊がありますが、喧嘩が強かったのは佐藤天です。喧嘩で追い回していたのは、天だったから。ただし、バエサの構えが本当に綺麗でしたね。左相手のオーソドックスだから、左ストレートを警戒して右手を高く上げているんだけど、あの立ち方をされるといくらプレッシャーを掛けても難しいですね。

それにあれだけ下がらされても、あの構えを続けることができたのは、結局のところ彼が強いからなんでしょうね」

──試合が進むと最初は佐藤選手が中心だったのが、パエサが中央を取るようになりました。

「でも、それも天が外を取れているということなので。凄く良い立ち位置ではありましたけど……、パエサは打ち方も綺麗でした」

──右のパンチ被弾し、そこから右ミドルとハイがうるさかったです。そして、あのシングルレッグ。あそこで倒されるというのは、佐藤選手自身も思ってなかったのではないでしょうか。それだけ準備をしてきただろうし。

「パエサは初回の組みで見せたヒザも急所になりましたけど、あれも上手かったですしね。ムエタイ的な流れもあって、実は寝技も強い。良いスタイルで、僕は好きなスタイルですね。

打撃もムエタイができて、ボクシングチックのリズムも良い。そしてテイクダウンしてからの寝技もよくて穴がなかったです。正直、テイクダウンされてバックを取られた時に『負けたな』と思いました」

──佐藤選手は背中を預けることが、たびたび見られます。

「あれは負けパターンです。これは嫌がられるかもしれないけどTRIBEっぽいです。打撃に自信をもって、倒されても凌いでっていう感じでやっている。TRIBEっていう打撃のジムのやり方……ですよね。そこを露呈した天の敗戦でした」

──素早く立ち上がるというのが現代MMAで、そこからのバック奪取が上手くなっている。反対に佐藤選手は止まってしまう傾向があるなら、足をきかせることができる間にガードを取るというのは、やはり現代MMAでは採りづらい選択でしょうか。

「まぁ、ぶん殴られますからね。組み技から打撃があると思っている人たちと、打撃があって寝技があると思っている人の違いはあると思います。日本は後者で、それが日本のMMAが抱える問題じゃないかと思います」

──フロリダで練習をしてきても、日本の問題ですか。

「だってミゲール・パエサは初めての一本勝ちっていうけど、完成度の高さは決して初めての一本勝ちではないですからね。いくらでも一本勝ちできるけど、その前に打撃で勝っているということで。

天は打撃が良い。だから、組み技と合わせて欲しい。まぁ、でもやっていると思いますよ。言うても、フロリダに移ってまだ1年です。ここから、フロリダでやってきたことが出てくると思います。だから、もう少しチャンスを手にしてほしいですね」

──この試合がUFCとの契約最後の試合で、戦績は2勝2敗でした。ここはもう神のみぞ知るということで。

「ただ、アイツの感覚だとどういうことになっても、残ることができるなら米国に残るでしょうね。UFCに出た人って、絶対にもう1度UFCっていうじゃないですか」

──水垣偉弥選手はそういってACBとRIZIN、岡見勇信選手はWSOF、田中路教選手もそうですね。

「古くは宇野さんもそうで。やっぱり、最高なんだと思います。僕は正直、分からないです。徳留選手だって、UFCに拘りを持っていたし──リリースされた人間は。僕は行ったことがないから分からないし、軽々しく言えない。でも天も、ここでリリースはされてほしくないけど、リリースされてもTitan FCだとかLFAっていう選択もあるし、UFCを狙うんでしょうね」

──う~ん、UFCもこれだけ陽性で出場できない選手がいるので、4戦2勝2敗の選手を切るようなことはしないでほしいと心から願います。

「ホント、そうです。天の続きを見たい。でもリリースされても天は『もう1回』って言うのでしょうね。同じ格闘技をやっているんですよね、僕たちと天は……」

──えっ?

「どこか同列に語ってはいけないのかなって……。UFCはやっていることが違っていて、なおさら60キロとかと違って77キロですからね。UFCのウェルター級ですよ。UFCのライト級とウェルター級は黄金の階級です。

バエサは本当に強かったです、でも、彼ぐらい強くて連勝をしていてもトップ10に入っていない選手がいくらでもいる。10位に入ると、もう相撲でいえば三役。その下に位置につけることですら、尋常ないです。だから天には、またそこで戦ってほしいです」

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