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【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その参─中島太一×堀江圭功「鈍感力、ガッツ」

【写真】試合前の青木の予想は、堀江の一方的になることもあるというものだった…… (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年9月の一番、第3 弾は27日に開催されたPancrase318から暫定フェザー級王座決定戦=中島太一✖堀江圭功の一戦を語らおう。


──9月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目は?

「中島太一✖堀江圭功戦です。中島選手とは今は練習していないですけど、堀江選手とは練習させてもらっていることがあって、組んだ感じでいえば『これは本当に強いな』と思ったんです」

──その発言は試合後の中島太一選手のインタビューで引用させていただきました。

「堀江選手はちょっと才能とか素質的にも一つ抜けていると感じていました。相当に強くて上手いです」

──では青木選手は試合前の見立ては堀江勝利だったのでしょうか。

「そうですね。堀江選手が勝つと思っていました。最初に組み合って中島選手が崩されると、勝負の行方は決まる。堀江選手のワンサイドになると」

──打撃ではなく、組みで戦局が読めると

「ハイ。中島選手が良い形で最初に組めないと、堀江選手のペースになり試合にならないかというぐらいでいました」

──組みの前に中島選手が懐に飛び込むタイミングを掴めず、無理やり行くと一発入る。そんな予想も私はしていました。

「あぁあ……KOがあるとすれば、堀江選手が仕掛けてカウンターを狙う。そういうことならあるかと思っていました。中島太一は打撃で仕掛けることはないと予想していたので。中島がするのはベタベタした試合で10-9.9を3つ狙うような」

──組ませないで、下がって殴る。それができるのか堀江選手だと私は予想していたんです。

「まぁ堀江選手の方が強いと思っていましたよね。実際に試合を見て中島選手が強いと感じたのは、凄く分かりやすいのですが……彼は怖がらずに前に出ていた部分で」

──やはりそこですか。

「そこ、そこだけだと思います。中島選手が勝っている部分は少ない」

──試合後のインタビューでは『遠い距離の方が嫌だった。近くで戦ってくれて良かった』と言っていました。

「遠い距離、近い距離……それ、中島選手はそう見えているかもしれないですけど、距離が近いか遠いかは、どっちが前に出て、どっちが下がるか。あれは中島選手が前に出た結果で、あそこで堀江選手が大きいのを入れることが出来れば、中島選手が下がる展開になっていたはずです。

つまり堀江選手は最初に入れることができなかった。そこがずっと影響してしまいました。とにかく中島は肝が座っていましたよ」

──実はテイクダウンは1度、ボディロックの展開にもほぼほぼ持ち込めていないのに、押し込みで判定勝ちができました。

「そうなんですよね。クリンチでちょっと優位なところを取っているだけで。主導権をほんの少し握っていた。結果10-9.9の試合をやり通したけど、やっつけてはいないです。

決して自分の試合じゃないし、有利になっていると言い切れる試合でもない。でも、あの戦いを3R通して実行できる。これは、良い意味での鈍感力です。今の世の中では、言い方を考えないといけないけど、戦いってバカになる必要があると思います」

──バカになる?

「ハイ。色々と考えたり、周囲の評価を気にしているのではなく、何も気にせずに自分を無条件に信じる。鈍感力であり、勘違い。だって上手い相手、予備知識がある相手じゃないとフェイントは引っ掛からなないですよ。どんくさいヤツはフェイントに掛らない。

僕はもう、当たるわけないじゃんっていう手だけバタバタした動きをしているんですけど、あれだとクロスカウンターを合わせられるリスクもないし、相手の綺麗なリズムが崩れます。だから、わざと下手でいるんです」

──青木選手は意識をしてそうしていますが、そうでない選手もいるということですね。

「中島選手もそうですよ。それって言いかえると才能、天才です。本当にリズムが全然違う。トンパチだから、レコードもトンパチで、ロシアに行ってしまうのもトンパチ。ACAの経験で強くなれたと思い込める。それだって……こういうと、思い込む力です。

堀江選手は逆に受けちゃいますよね。練習でもずっと受けている。テイクダウンを切る練習をして……僕らとやっている時は受けるだけで、攻めていなかった。受けが強いことで、僕らもより強く感じる。

でもMMAは喧嘩というか、最初に『この野郎』っていかないと。それが出来れば堀江選手のゲームで始めることができる。結果論ですけど、中島選手はガッツでいった。そこが勝敗の分かれ目になりました」

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