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【2014WJJC】キーナン・コーネリアス、ワームGは是か非か

Cornelius

【写真】中量級最強ロを破ったキーナン・コーネリアス。その戦い方は、議論の対象となっている(C)MMAPLANET

5月29日(木・現地時間)から6月1日(日・同)にかけて、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校のピラミッドにて、ワールド柔術チャンピオンシップが行われた。大会3日目の5月31日(土・同)に世界大会もクライマックスとなる黒帯のトーナメントがスタート。ここでは「階級を超えた世界最強の競技柔術家を決定する舞台」である無差別級、中でもこの日の3回戦で実現したレアンドロ・ロ×キーナン・コーネリアスの一戦は、競技柔術の技術発展史に確実に刻まれるとともに、賛否両論を呼び柔術界に大きな波紋を投げかける試合となったので詳しく紹介したい。

<無差別級3回戦/10分1R> 
キーナン・コーネリアス(アトス/米国)
Def. 6-4
レアンドロ・ロ(シセロ・コスタ/ブラジル)

米国の新鋭コーネリアスは、対戦相手の裾(lapel ラペル)をさまざまな方法でコントロールするラペルガードのシステムを開発。4月のワールド・プロ大会では、そのバリエーションであるワーム(worm 蠕虫)ガード──相手の裾を引き出して、ラッソーガードの要領で自分の足に絡めた後、さらにそれを相手の逆側の膝裏を通して掴んで可動性を奪ってしまうガード──を駆使してブラウリオ・エスティマに完勝している。ムンジアル前には、さらにこのガードの応用バージョンを用意したと高らかに宣言したコーネリアスと、今年に入って驚異的な強さを発揮している中量級世界最強王者レアンドロ・ロが激突したこの試合は、まさに技術革新の最先端を示すものして大きな注目を集めたのだった。

試合開始後のスタンド戦。コーネリアスは瞬く間にロの左裾を引き出して捕獲して引き込むと、それを自らの右足にラッソーの形で巻き付けて、さらにロの右膝裏から通してあっさりウォームガードを完成。ロの右足には、まさにウォームの如く自らの裾が巻き付いて動けない状態に。よく見ると、自らの右手を自らの右足の下から差し込んで裾を掴むという新バージョンである。あまり警戒した様子も見せずにこのガードを作らせてしまったロは、なんとこの後試合終了までこの裾のグリップを解除できず捕われ続けることとなる。

コーネリアスは、動けないロの右足方向にスイープ。右足を使えないロは、右腕をマットにポストして体勢を戻す。するとコーネリアスは、今度は回転してベリンボロ→レッグドラッグの連携へ。それでもロは持ち前のバランスで上を保つ。コーネリアスは両手のグリップを巧みに持ち替えながら、裾のグリップをキープ。ウォームはロの右足に巻き付いたままだ。襟や袖に比べて断然掴み易く、握力の消費も少なく、グリップも入れ替え易いのが裾なのだ。

その後もロを揺さぶり続けるコーネリアスは、後転する状態から両足を大きく振り子のように振ってついにスイープ。2Pを獲得した後も、ロの裾は離さない。そこから自らの体を離して距離をつくるコーネリアスだが、ロは強靭な両腕をマットにポストして上体を起こして上になり、2Pを取り返した。

このワームガードはロの右足に膝裏から巻き付いてその動きを完全に封じるが、同時にラッソーで巻き付けたコーネリアス自身の右足の自由も奪うもの。よって下になったロにもスイープのチャンスが生まれる。つまり、コーネリアスが裾のグリップをキープしている限り、50/50にも似た、お互いが上を取り合うシーソー状態が永遠に続くこととなる。ただし、文字通り両者互角(フィフティ・フィフティ)の50/50と違って、このガードにおいて可動性が高いのは仕掛けているコーネリアスの方。つまり、コーネリアスはこのグリップを保つことで試合を「終了時点でどちらが上にいるか」の競い合いと化すことができ、その上で優位に立てるということになる。

下になったコーネリアスは再び新ウォームガードへ。すると低く抑えに掛かるロ。距離を作ったコーネリアスは、再びグリップを持ち替えて従来のワームガードに戻す。空いている左足をスパイダーガードのようにロの右前腕に当てて揺さぶるコーネリアス。開発して数ヶ月にして、すでに状況に応じたさまざまな仕掛けを身につけているようだ。ワームを解除することもあるが、捕らえた右の裾のグリップだけは持ち替えつつ必ずキープしている。

やがて残り3分の時点でコーネリアスが前方に起き上がって4-2とすると、ロも上を取り返して4-4に。コーネリアスは新ワームガードから後転しつつベリンボロ狙い。こらえたロは、少し裾にたゆみができたところで右足を引き抜こうとするが、足首にひっかかってしまってかなわず。さらにさまざまに揺さぶり、頭を使って三点倒立するように上を狙うコーネリアスと、それを許さないロ。試合中何度も時計を見て残り時間を確認していたコーネリアスは、残り20秒程のところで座って上になることに成功。6-4とすると、距離を取ってベースを保って残り時間をやり過ごして勝利を得た。

世界で誰も見たことがないガード戦法を用いて、世界最強の中量級戦士レアンドロ・ロの攻略に成功したコーネリアス。この試合の観衆は、まさに柔術技術の最先端を目撃したこととなる。おそらく今頃は、世界中の道場においてこの試合のコーネリアスの動きが研究されていることだろう(実際、このムンジアルの中でさえ、コーネリアスがワールド・プロでみせたウォームガードを多くのトップ選手たちがすでに使っていた)。

しかし、この攻防が果たして競技柔術の魅力を増すものなのかという点ではどうしても疑問が残る。コーネリアスが試合開始直後に取ったロの裾を最後までキープし続けたことで、50/50と同様のシーソー状態が続いてしまったこの試合。「強い格闘家の姿を見たい」という人々の期待にもあまり応えないものとなったことは否めない。「試合(音楽)終了時にいいポジションになっていた者の勝ち」という点では、格闘技というよりむしろイス取りゲームを見ているような感もあった。

事実、ファンや実践者たちの多くからはすでに、このワームガードについて「柔術がまた一歩そのルーツから遠ざかってしまった」「またしても柔術が退屈なものになった」「禁止すべき」等の声があがっている。さらには50/50やラペルガードが、ルーチの対象にならないことは、出場選手からも不満の声が聞かれており、世界を複数回制したとある柔術家も「連盟がルールを変更しない限り、もう試合に出ることはない」とまで発言している。

とはいっても、この試合における攻防は決して単調なものではなかった。コーネリアスは新旧のワームガードを含め、無数の裾の掴み方を披露した。さらにそこからさまざまな崩しやスイープのバリエーションを見せており、しかもその多くはどれもが今まで前例を見ない形のものであった。短期間でこれだけの技術を創作してしまうコーネリアスの才能は恐るべきものがある。そして、慣れない動きに対応し続けたロの身体能力の凄まじさも伺われた。

まだ開発されたばかりのワームガード。現地点ではその賛否に関して判断を下すにはあまりにも早すぎるだろう。今後コーネリアスらがこの技術をいかに進化させてゆくか、そしていかなる防御法が発展するのか、今後も刮目したい。と同時に、この一戦で明暗の分かれた両者、勝者が迎えた次戦と階級別の戦い、敗者が挑んだミドル級での激闘――と、ワールドはクライマックスのピークを迎えることとなる。

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