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【Pancrase308】暫定ライト級王座決定戦でソリホンと戦う粕谷優介─01─「菊入戦はケジメでした」

Yusuke Kasuya【写真】ケジメのファイトとなるはずだった菊入戦で61秒TKO勝ちを収めた粕谷。再びMMAファイター人生が動き始めた(C)KEISUKE TAKAZAWA/MMAPLANET

28日(日)に東京都江東区の新木場スタジオコーストで開催されるPacrase308。そのメインで暫定ライト級王座決定戦をサドゥロエフ・ソリホンと戦う粕谷優介。

高校卒業と同時に就職し、結婚もして子宝にも恵まれた。人生のプライオリティは家族を守ること。そんな粕谷がUFC後にパンクラスで2連敗を喫し、1年4カ月のブランクを経て今年の4月に菊入正行と戦い61秒KO勝ちを収めた。

ファミリーマンが再び、なぜケージに戻ったのか。そして暫定王座決定戦に関してどのような想いでいるのかと尋ねた。


──4月の菊入正行戦まで、1年4カ月のブランクがありフェザー級からライト級に戻しての再起戦となりました。実は日本で戻ってきて連敗し、粕谷選手の生き方として現役引退なのかと思っていました。

「まずUFCをリリースされて、パンクラスでフェザー級で戦おうと思ったのは失ったモチベーションを取り戻すためでした」

──心機一転、新しい階級でと。

「ただ計量の2日前ぐらいから『落とせないかも』という感じになり、体重は落とせてもアップもできないぐらい疲弊していて、少し体を動かすと体が痙攣してしまうような状態だったんです」

──それでも松嶋こよみ選手との試合は、序盤は良い動きでバックを制することもできました。

「1Rしかない。そこで取れないとKO負けする。そういう判断で攻めていました」

──なぜ、続いてISAO戦のオファーを受けのですか。

「動けないことはもう分かっていました。ただISAO選手というオファーをもらって、ISAO選手もそうだし、フェザー級から逃げるのも嫌だと思ったんです。まぁISAO選手に勝つイメージとはいうのはなかったですけど(苦笑)。

ISAO選手にしても松嶋選手にしても強い選手だし、減量苦が敗因ではないです。減量が大変でも、勝てる選手は勝てるので。2人に負けたのは僕が弱いからです」

──UFCを含めて4連敗になり、仕事を持ち、ジム経営も始めた家族第一の粕谷選手がここで現役を退くには十分な状況かと思いました。

「ハイ、辞めようと思っていました。現にオファーを頂いても、もうフェザー級で戦う気にはなれなかったですし、今言われたように4連敗というのは、もう潮時だと思っていました。仕事があって道場も順調に会員さんが増えてきて、指導者に回る時期が来たのかと考えていました」

──ハイ、生活は仕事で成り立ち、趣味と実益を兼ねたジムもある。戦う理由が存在していません。

「そうですね。本当にそうだと思います。実は家のDVDレコーダーのHDDの一番上……一番古い録画が松嶋選手とやった試合で、その次がISAO選手との試合なんです。その下に仮面ライダーやプリキュアがあって、子供たちは自分が見たいモノを見るときに毎回のように僕の試合を視て、『パパ、また負けているよ』って言ってくるんです」

──消去すれば良かったのではないですか(笑)。

「ハイ、その通りなんです。でも、消したら消したで逃げているなって……。何度か、夜中に消去しようとしたこともありました。でも、それが分かった子供たちが『なんで消したの?』と尋ねてきたら、僕は父親としてどう返答すれば良いのかと考えて……そうなると消せなかったです。

結果、子供たちは僕が負けた試合を何十回、何百回と見ているんです。そのたびに『また負けた』と繰り返していました。その姿を見ていて、引退を宣言したわけでもないですし、オファーもいただけていたので」

──また戦おうと?

「ライト級だと言い訳もできないし、ケジメのファイトをしようと思いました。ぶっ飛ばされて負ければ、もう辞めることができると……」

──それが菊入戦だったわけですね。

「4月の試合が終わって、引退するならベストのタイミングでした。暫らく放っておいて欲しいとも口にしていましたし。ただ、子供たちが今度は勝った試合を繰り返し視て喜んでいる。なら、続けるのも良いかと……でも、こんなにすぐに試合を受けるつもりもなく、それが暫定タイトル決定戦になるとは思っていなかったです。1年ぐらい試合はしないでいようと考えていたので」

──いやぁ粕谷選手、それは子供さんを理由にしているだけで、本当は戦いたいのではないですか。子供が喜ぶ顔は他のことでも見ることはできます。あのケージのなかで殴って、極めてという戦いができた人です。心の奥底ではMMAを戦いたい、そんな気持ちがあったのではないでしょうか。

「どうなんでしょうか……。正直、試合が決まっていない時の自分は『何のために生きているんだ』という風な想いが心の片隅にあったことは確かです。でも、それ以上大きくなることはなかったで。それでも……勝っても負けても一生懸命やっている時は楽しいです。今、子供たちも柔術をやっていて『辛くても頑張らないといけない』と指導していると、『そのお前は頑張っているのか?』という声が聞こえるようになったんです」

──ハイ。

「逃げているな──と、思いました。まだモチベーションを作ることができるとも分かっていたので。それでも試合が決まると、どうしようもなく怖くなるんです。やりたくないです。だから必死になって考えている。それも一生懸命なのかと」

──それはもう格闘技好きの思考です。続けることに対して、奥様はどのような意見でしたか。

「ビックリするくらい、反応は薄かったです。きっと辞めると思っていなかったんだと思います。ただし、フェザー級に落とすことだけは反対されました。やはり減量中は気付いていなかったですが、色々と感じることがあったようです。ライト級で戦うことに安心していました」

<この項、続く

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