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【JBJJF】フルフォース杯出場。七帝柔道出身、犬神家パス=添田航平「関根さんは恰好良いオジサン」

Soeda【写真】七帝柔道の響きは、今も特別に感じられる。それにしても中学3年生を受け持つということは、今が一番大変な時期なのではないだろうか……(C)KOHEI SOEDA

年が明けて1月27日(日)、大阪府豊中市の豊中市立武道館ひびきで日本ブラジリアン柔術連盟(JBJJF)共催の『FULLFORCE CUP JIU-JITSU OPEN 02』が開催される。

映像&デザイン制作会社フルフォース・プロダクションの荒木拓也代表が開催する同大会は、同社がサポートする柔術家が揃って出場するため「荒拓祭り」とも呼ばれている。

そのサポート選手の1人が、2018年全日本柔術選手権黒帯ミディアムヘビー級を制した吹田柔術所属の添田航平だ。七帝柔道出身で、“戦う教師”のニックネームを持つ添田に、熱い思いを語ってもらった。

Text by Takao Matsui


――添田選手は、学校の先生だと伺いました。

「はい。大阪の公立中学校の3年生の担任をしています。今年で就任3年目になります」

――先生が柔術家だということを生徒さんや父兄もご存じなのですか。

「今はインターネットが普及されていますので、自分の名前で検索して動画を見たり、試合の結果を知っている生徒や父兄の方も多いですね。柔術だけではなく、2018年8月にクラッシュという格闘技の日本代表としてアジア大会で試合をしましたので、そのことを知っている方も多いです」

――クラッシュはウスベキスタンの民族格闘技ですね。なぜ、出場されることになったのでしょうか。

「実は大阪大学の学生の頃、1人暮らしの自宅近くのバーでアルバイトをしていたところ、常連のお客さんで派手な服装をした年配の方がいたんです。自分は普通に接客をしていましたが、その方がある格闘技連盟の関係者だったことを後で知りました。

バーの店長がその関係者に自分のことを話してくれたようで、昨年のフルフォースカップを見に来てくれました。試合後、その関係者から連絡が入り『クラッシュという格闘技の日本代表を決める選考会をするので出てみないか』と打診がありました。それで出場したら勝つことができて、日本代表入りをはたしました」

――そうだったのですね。七帝柔道出身ですから、寝技メインですよね? 立ち技のみのルールは厳しくなかったですか。

「たしかに七帝と柔術ですから、真反対の競技ですよね。でも自分は小学3年生から柔道をやっていたので、何とかなりました。アジア大会では優勝はできませんでしたが、とても良い経験になりました」

――話は前後しますが、七帝柔道から柔術へ流れた経緯を教えてください。

「吹田柔術の方が、よく阪大の柔道部へ練習に来られていたんです。そこから自分も柔術へはまっていきました。柔術をやるようになって、どこまで自分の力が通用するのか知りたくなってきたんです。

それで大会に出たら、とんとん拍子で勝つことができたんです。七帝柔道だとよく研究されるんですが、柔術ではあまりないようで、自分の得意なパターンにはめることができました」

――例えば、どのようなパターンでしょうか。

「トップから攻めてハーフに入って、そこから足を抜いてパスする動きです。『犬神家パス』と呼んでいます。普通の柔術家と動きが少し違うのかもしれません」

――『犬神家パス』ですか(笑)。最近、ドラマで「犬神家の一族」が放送されていましたが、湖で両足が逆さになっているシーンから連想する技ですね。イメージが浮かびやすいですね。

「特許侵害していませんかね?」

――犬神家だけですから、セーフでしょう(笑)。2018年の全日本選手権は、犬神家パスを決めまくっていました。

「初めて黒帯で出場しましたので緊張しましたが、自信はありました。試合に出たら誰にも負けないという気持ちでいますが、それが強く出た大会になりましたね。決勝で対戦した中村勇太選手は、MMAでも試合をされていてパワーがあって足関がうまい印象でしたので警戒していました。

でも、うまく自分の得意なパターンにはめて、最後は腕十字を極めることができました」

――快勝でした。その後、10月のプロ柔術MATSURIで関根“シュレック”秀樹選手と対戦しました。添田選手にとって関根選手は、どのような存在ですか。

「カッコ良いおじさんです」

――お、おじさん!!

「もちろん人間離れしていて、パワーもあって、エンターテインメント性を強く持っていますよね。自分は余裕がないのか勝ちにシビアな面があって、どんなことをしても勝つという思いが強いです。でも関根選手は、相手の強さを引き出しておいて勝つという余裕があります。そこが自分とは、違う点ですね」

――関根選手との試合は、テイクダウン2ポイント差での敗北でした。点数上は差がないように感じましたが、戦っている本人はどんな手応えだったのですか。

「集中して試合をしていたので、あまり内容を覚えていませんでしたが、周りは接戦だったと言ってくれました。でも、点差よりも大きな差を感じていたのも事実です」

――それは一体、どのような差なのでしょうか。

「うまく表現できない、得体の知れない差ですね。心の持ち方というか、微動だにしない強さ。一度、担ぎ系の投げ技に入ることができて行けると思ったんですが、なぜか投げられませんでした。何をやっても崩れない。そんな心の強さがありましたね。追い込まれていたのかケガをしてしまい、今もまだ完治はしていません」

――そのような状況だったのですね。シュレック越えは簡単ではないですか。

「3、4年前、紫帯の時にも対戦させていただいたんですが、同じように立ち技でやられました。今回も負けてしまい、本当に悔しかったです。簡単ではないですけど、絶対に越えてみせます」

――学校の教師をしつつ、柔術で結果を出すのは簡単ではないですね。

「簡単ではないからこそ、やってみる価値はあると思っています。正直、このまま二足の草鞋を続けていて、10年後、20年後、後悔することはないのか迷っていた時期もありました。いえ、正直なことを言えば、今も迷うことはあります。でも教師を始めて3年、とても魅力のある仕事です。両立させて、もしも専業の柔術家以上の結果を出したら、とてもカッコ良い人生、面白い人生になると思っています」

――関根選手は、警察官を辞めてプロになりました。そのことを知った時は、どのようなな思いだったのでしょうか。

「グラッと来ました。教師と柔術の両立について迷っていた時期だったので、教師を辞めようかと思ったこともありました。でも、いろいろな方に相談している中で、1年生から担当していたので生徒が3年生で卒業するまではと思うようになって。今は流れに身を任せる感じです。

フルフォースの荒木代表、七帝柔道、吹田柔術の新川武志代表にも本当にお世話になっているので、結果を出して恩返ししたいと思っています。負けず嫌いな性格もありますが、その方たちへの恩返しの思いが強いですね」

――フルフォースのサポート選手だからこそという想いはありますか。

「サポートしていただく立場になって、誰かのために戦う責任が芽生えてきました。荒木代表と食事をさせていただいてお話を聞いている時に、ビジネスの先に、みんなの笑顔が見えていることを知りました。そんな素敵な世界を見せてくれるならば、やるしかないですよね。みんなで見たいじゃないですか、そんな世界を」

――勝っても負けても、笑い合える仲間。そんな素敵な世界ならば、みんなで見たいですね。ご自身が目指す目標は?

「記録だけではなく、記憶に残る選手になりたいです。どうやれば、そこに辿り着けるか分かりませんが、だからこそ挑戦してみたいですよね。今回のフルフォースカップに出場できるかどうかは微妙ですが、2019年も二足の草鞋で勝負を挑みます」

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