この星の格闘技を追いかける

8月23日、ONE記者会見に向けて【Gray-hairchives】─13─Oct 6th 2012 Kotetsu Boku

Kotetsu Boku【写真】結果を残すことで、その言動に真実味が帯びていった(C)MMAPLANET

23日(木)、東京都新宿区パークハイアット東京で来年3月31日のONE日本大会に向けての記者会見が開催される。

MMAPLANETでは同会見まで、ONEの歴史を選手か会計者のインタビューを通して振り返ってみたい。Gray-hairchives─1995年1月にスタートを切った記者生活を、時事に合わせて振り返る──第12弾はゴング格闘技246号より、2012年10月6日に開催されたONE06でソロバベル・モレイラを破り、ONE世界ライト級王座を獲得した朴光哲のインタビューを再録したい。

日本のトップが集結しつつあるONEだが、6年前からサークルケージをベースとして戦っているのが青木真也と朴だ。No Faceの異名を持ち愛されキャラで通っている朴は、ONEでキャリアを再構築させたファイターといえる。独特な感性を持つカンチョルは、ONEで戦うことで──ドリアンを覚え──良い味のベテランとなった。


――タイトル奪取から一夜明け、今の気持ちを教えてもらえますか。

「試合の夜って眠れないじゃないですか? パーティのあとホテルに戻ってきたのは朝の4時ぐらいで、そこからベルトを横に置いて仮眠を取ったんです。で、起きた時に『やっぱり夢だったんだ』と思ったら、横にベルトがあった(笑)」

――本当ですか。

「試合前ってスカ勝ちする夢って、よく見るんですよ。反対にチョー負ける夢も見るし。でも、今回は試合の夢を見なかったので、『やっぱり夢見たよ』って思ったら、立派なベルトがあったんで(笑)」

――ベルトが取れたことが嬉しいですか、それともゾロ・モレイラという難敵、彼のための舞台で勝てたことが嬉しいですか。

「なんつースかね、自分がイメージしたことは成るって、最近は分かるようになってきたんです。だから、それッスよね。『やっぱし』って感じですよね」

――繰り返しますが、本当ですか(笑)。

「ホント、ホント(笑)。ほらぁ、やったねぇって」

――それほど自信があったのですか。

「いや、自信っていうか哲学的な話になっちゃうんですけどね。俺はマイケル・ジョーダンにはなれないけど、俺次第で朴光哲にはどうにでもなれるって気付いたんです。俺の生活態度や俺の練習への取り組み方で、どうにでもなれるって」

――そういう風に思えるようになったのは、いつ頃の話なのでしょうか。

「いつですかね? 修斗に復帰しようと思ったのも、確信は得られないけど、そうなるって思えたからなんです。そう思って復帰したら、ああいう風な形で勝ったから、やっぱり勘違い入るじゃないですか」

――勘違いなのですか?

「でも、今回ので……ちょっと確信ッスよね。で、もっと言っちゃえば、例えば1Rにダウンを取った時にアソコで勝てたんス。俺のイメージで右が当たれば勝てるっていのがあったから。1Rで勝てる。だけど、そんなに上手い話はないって、自分のなかで苦戦するって予想を立てたんです。で、試合の次の日には絶対に左足が潰れているなっていうのも予想していたんです。そうしたら、そうなったじゃないですか」

――う~ん、何が違うモノが見えているのかもしれないですね(笑)。

「怪しい? 胡散臭いでしょ(笑)」

――その髭面と相まって、そういう風にも感じられます(笑)。その絶対に勝つイメージは、2Rに逆襲され、あれだけローを蹴られ続けているときにも、持続できたのですか。

01「結局、食らいながらも『右の拳の位置がチョット開いているな』とか、『もっとコンパクトに、内側に入れたら当たるな』って。そういう風に考えながら、もっと出て来てくれって思っていました。あの金網際とかも、外国人選手って前に出て来てくれるし、ゾロはホームだから凄いプレッシャーだったと思う」

――前の試合でレアンドロ・イッサが負けたことで、そのプレッシャーも強まったようでした。

「それはちょっと、ラッキーでしたね(笑)。カウンターを狙う人間からすれば、凄く戦いやすかったですよ」

――それでも、あれだけローを受けていたので、もう終わりかと思うシーンは何度もありました。一番警戒しないといけないと言っていたローをアレだけ食っていたのですから。

「距離を取ってローを打っていれば、奴の試合になっていたかもしれないけど、でも前に来る奴だったから。まぁ、2Rはチョット心が折れかけてしました、正直言うと。チョットですよ(笑)。アームロックの時も、このまま極めさせたら、どれだけ楽になるだろうって、チラッと思いましたよ」

――でも、踏ん張れたと。

「耐えましたね(笑)。ローに関していえば、(田村)一聖の指示が本当に的確で。『距離を取って』、『正面に立たない』、『朴さん、動いて』っていう当たり前のことを言ってくれたのが、凄く耳に入ってきて助けてもらいました」

――あの状況で、前足を潰されて、体から当たっていくようなパンチで逆転。でも、田村選手は『まぐれじゃないッスよ。狙い通りなんです』って力説していて、凄く微笑ましかったです。

「一応、ストライカーでやってきたけど、俺はKO率が低くて打たれ強いっていう選手で、興行主からすれば派手に勝てないし、派手に負けないから使い辛い。リオン(武士)の右とかは、ボクシングのトレーナーでも世界を取れるって言っているぐらいで、俺にはそんな持って生まれた才能はない。多くの人間も才能がなくて、皆は諦めていくんだけど、俺は根性が汚いから。諦められなかったんです」

――……。

「自分も倒せる右をいつか、ゲットできるって――してやろうって思ってきたんです。で、1年休んでいた間に体の使い方が凄く分かってき。10年以上やってきて、拳の当て方は2、3年前に分かったんですけど、最後の一歩、KOできるパンチって何か、分かっちゃったんです(笑)」

――それは踏み込めなくて、体が流れても可能なのですか。

「体が流れているのは、シフトウェイトしているからで。あの右を貰えば人間は誰でも倒れる。でも、強い選手は貰わない」

――KOの威力があるのは理解できるのですが、体ごともっていくと空振りした時に、バランスを崩して、相手に隙を見せることになる。やはり踏み込むことは戦いには欠かせない要素だと思うんです。

「その通りだと思います。そういう風に、試合中に修正できたんです。モダン・スポーツで試合中に自分のパフォーマンスを修正することは凄く難しいことなんスけど、冷静でいるってことを、常々心掛けてきたんです――って、まぁ、勝ったから聞いてもらえることなんスけどね(笑)。

ゾロのローを100パーセント、カットするのは無理だけど、アイツも俺の右を100パーセント、カットするのは無理。で、一発は入れば絶対に倒せる。そういう武器をやっと手にすることができたんですよ」

――朴選手のパンチ、復帰後は何が変わったのでしょうか。

「MMAの選手って、豪腕で力のある選手が多いけど、それでもパンチは手打ちになっている場合が多いんです。俺は体全部を使って打てるようになった。しっかりと重心移動ができていれば、組まれても一気にテイクダウンされることはないと思います。ゾロには綺麗に持っていかれましたけど(笑)」

――それはローを効かされて、シフトが上手くいっていなかった時じゃないですか。それにしても、1年弱の休養でそれほど変わるものなのですね。

「もう純粋に体の限界を感じていたんです。両ヒザ、両ヒジ、肩、ジャブとフックで試合を作っていた人間がフックが打てなくなって。だけど時間ができて、体の使い方を考えると、また打てるようになって」

――ということは、練習は続けていたということですか。

「後輩の練習相手ですよ。運動はしていたかったので。現役を一度退いたことで気持ちにゆとりができたのと、対戦相手のことを考えないでよくなり、自分に向き合えたんです。実は3月からしっかりと練習していたし。UFC JAPANで一聖がKO勝ちしたことが大きかった。やっぱり、辞められないって。格闘技って、皆が綺麗ごとを言うけど自己マンなんです。もう、100パーセント自己マン。誰かの為、家族、兄弟、子供の為って言っているけど、誰が何て言おうが自己マンだから。でも、そういう風に自分の存在を証明することが格好悪い、ダサく感じてしまったんです」

――強さを示すことが……ですか?

「ハイ、もうイイやって。だけど、いっつも真面目に頑張ってきた後輩が、あの場所で成果を出したのを見て、『やっぱ辞められない』ってなっちゃいました。熱いものが蘇って来てしまって……、本当に申し訳ないけど、またやらせてもらいますって(笑)」

――今回の勝利は、逆に後輩たちにも良い影響を与えることができたのではないでしょうか。

「そうッスね。カンチョルでも、でっかいブラジル人に勝てるんだって思ってもらえれば、モヤモヤも吹き飛ぶでしょう」

――この変化は、本当に朴選手の内面だけのものなのですか。それこそ、ベジタリアンになるような変化が、起りうるのかと。誰か第三者の……例えば好きになった女性の影響とかは?

「ないです、ない(笑)。全然ない。ベジタリアンになったのも、体のことを考えてだけのことなんで。俺、もともとアンチだったんです。ファイターとか、アスリートとかって食事にも細かいじゃないですか。『黙ってだされたものを食えよ』って思っていたんです。でも、よくよく世の中を見渡してみたら、毒しかないッスよね。

だからってオーガニックなんて言われても、お金がないからできないし。俺の場合、ベジタリアンっていっても、野菜をバランスよくっていうんじゃなくて、玄米で賄っています。玄米には全て必要なモノは含まれているから。九州産の玄米、30キロを1万円とかで勝っているんです」

――肉は一切摂らなくなったのですか。

「だから、ヴィーガンですね」

――ヴィーガンとは?

「動物性のモノは一切、魚も肉も鶏も卵も乳製品も摂らないです」

――動物性たんぱくは、人間に必要な栄養素ではないのですか。

「ソレを証明する戦いでもあるんです。皆、サイズ=パワーだと思っている。サイズじゃパワーは説明できない。欧米の成功したモデルをそのままコピーしても、欧米人は勝てないから。アイツらにはアイツらのやり方があって、俺らには俺らのやり方がある。それを証明するんです。もちろん、相手が何をやってくるかを知ったうえで、そうしているんスよ(笑)」

――欧米人と自分たちでは胃袋からして違うので、朴選手の言っていることは確かに一理あるのでしょうね。

「ファイターなんて、多くが貧乏なのに1万とか使ってサプリメントを買って……、それは違うよって。フィジカル・トレーニングにしても、それは自分自身へのメンタル・ヘルスでしょって。格闘家はもっと格闘技の練習をしないと――っていうアンチテーゼでやっているんです。こういうこと言うと、変人扱いされるけど(笑)」

――人それぞれ、自分の意見があって良いと思います。朴選手の意見をなるほどと思う面と、格闘技で強くなるためにフィジカルを鍛え、効率を良くするという考えもありますし。アイデアを考えたり、工夫することに制約はないですから。

「皆が皆、UFCとか言っているけど、もう真面目に考えない奴は淘汰されますよ。工夫してトレーニングする者じゃないと。そんななか、俺はオッサンだし、試合で自分がいかにパフォーマスを上げることができるかを考えています。金とか二の次です。スポンサーやプロモーターにペコペコするのは、人の勝手だけど、俺は違う。その時間、格闘技に費やしたい。人の物語のなかで生きるんじゃなくて、自分の物語で生きていきたい。今を如何に認識するかですよ。あんまり、未来に縛られたくない」

――同じ台詞でも、チャンピオンの言うことには重みが出てきますね(笑)。そんななか、ONEライト級王者として、おのずと次の話が届くはずです。実は、以前からフェザー級に落すつもりだったという話も聞いているのですが。

「試合当日で服を着て体重を計っても、71.5キロなんです。フェザーにはいつでも落せるんですが、フェザーに落すなら通常体重をフェザーにしたい。もう、減量をしたくないんで。試合前の1週間、2週間って一番栄養を摂らないといけない時期なんです。良い栄養を摂って、良い休息が必要になる。

普段強いのに、試合で動けないのは調整を失敗しているから。それなら、体重が軽くても、普段通り動ける方が絶対に良いと思う。いくら上手くリカバリーができても、その結果、どこかでケガをしたり蓄積したものが出てくるんです。ハイバーダイエットと、ハイパーリカバリーで名前を挙げたJZ・カバウカンチの現状を見れば……。彼は体に無理していたんです」

――愚問かも知れないですが、食べ物に美味しさは求めてないということですか。

「グルメなんてクソ食らえって(笑)。俺は食うことは大好きだし、お酒だって原料が分かっていて、無添加のモノだったらたまに飲みます。試合の1週間前に宇良(健吾)君の送別会があって、ガンガン飲みましたよ。凄く楽しいし、そっちの方が大切なんで。試合に向けて逆算するんじゃなくて、毎日を大切にすること。毎日の積み重ねの方が、自分を伸ばすこともできる」

――なるほど。

「あとは、自分で自分のこと、オッサン認定しちゃわないこと。ソレって年を喰ったからしょうがないって、楽になろうとしているんですよ。そうじゃなくて、体を上手く使いこなせれば年齢なんて関係ない。前はサポーターがなければ動けなかったのが、今は一切、テーピングとか無しだから。サンドバック叩くときやミット打ちも一切、バンテージも巻かない。だから、35歳以上だけどまだやれるっていうファイターを集めて、技術練習とかしたいんスよ、俺。そうやって俺が何をやっているかを、俺の尊敬しているファイターに知ってもらいたい。で、年齢なんて関係ないってガンバってほしいんスよ」

――年齢=衰えじゃない。サイズ=パワーじゃないことを実践していくと。

「ゾロだって、あの体はライト級では脅威だけど、きっとウェルター級の方が強いですよ。みんなサイズとパワー、パフォーマンスを一緒にしてしまっている。しかも、そんな中に日本人も巻き込まれている。まぁ、それでも昨日の戦いは本当に厳しかった。だから、今72キロぐらいある通常体重を節制して67、68キロぐらいにして、フェザー級に落そうかという考えは持っています」

――そうなると、イヴォルブのためにベルトを取ると宣言した青木選手の挑戦を受けることがなくなってしまいますね。

「う~ん、普段の体重が68キロを切ったら、フェザーで戦えます。それは簡単です。その選択肢を踏まえつつですね……、やっぱり青木君はメチャクチャ強いですから……今回のゾロ戦は何の気なしに受けたんです。で、サインしたあとにゾロとロジャー・フエルタの試合を見て、俺はもうヤキが回ったんだと思ったんです(笑)勝つイメージなんて1週間前まで、一切浮かんでこなかった。でも、最後の1週間で絶対にイメージできるって信じていたんです」

――それは青木選手と戦ってみたいということなのでしょうか。

「チャレンジはしたいです。青木君と戦ったらどうなるんだろうって。日本の絶対的なトップだから。ジョシュ・トムソンに勝っている川尻君を秒殺するわけじゃないですか。その強さは揺るぎないです。そういう相手とやるっていうチャレンジ。自分がチャンピオンじゃない。自分がそんな相手に何ができるのか。だけど、その一方で逃げたって言われても、もうデカい人間と戦うのは厳しいってなるとフェザーにするかもしれないし」

――う~ん、正直、どちらも見てみたいですね。

「でもホント、引退しているときは、やっぱり何を言っても聞いてもらえなかった。でも、こうやって結果を残せば、耳を傾けてくれると思うし、興味を持ってもらえる。そういう環境を俺に与えてくれる徳さん(山本KID徳郁)に感謝しています」

――いやぁ、もう聖人君子ですね。

「俺はそんなんじゃない。ダメなヤツで、悪い人間っスよ。ただ、入場曲もそうなんだけど、バットマインドを捨てようってことなんです。他人のこと毎日のように、悪く思ってしまう。ウンコのように、そういう気持ちが毎日、生まれてくるんです。で、いくら快便でも、次の日はまたウンコは溜まっているのと同じで、人に対して悪く思う感情って毎日、生まれてくるものなんです。

毎日、その感情をちゃんと捨てて行かないと、ウンコと同じで毎日出さないと溜まってしまう。そうやって、人と接していくことができるか、毎日が修行です。髭が伸びているうちは、修行しているってことなんです」

――いやあ、良い話なんですけど例えにウンコっていう言葉が出てくるのが、やはり朴選手らしくてホッとします(笑)。最後にインタビューのまとめとして、現時点で、一番素直な気持ちだと次の試合は青木選手とのONEライト級王座防衛戦、それともフェザーに落す、どちらでしょうか。

「今はどっちでもないです。次のことは、今は真剣に考えられないです(笑)」

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