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【WJJC2018】怪物も人の子。スーパーヘビー級でレアンドロ・ロが負傷し、動けるアリ―が優勝

Ally【写真】かつてのブラジリアン柔術の重量級とは、明らかに違うスピードのある柔術家が台頭してきている(C) SATOSHI NARITA

5月31日(木・現地時間)から6月3日(日・現地時間)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われた。ブラジリアン柔術の頂点を極める同大会ロングラン・レビュー、今回は新旧勢力のエース対決に一人の男が割って入ったスーパーヘビー級の模様をお届けしたい。


昨年ヘビー級決勝で歴史に残る名勝負を展開したロとメレガリが揃って階級を上げてエントリーしたことで、二人による決勝での再戦の期待が高まっていたスーパーヘビー級。しかし、この両者に立ちふさがる男がいた。数年前から頭角を現していた24歳、モハメッド・アリーだ。

01<スーパーヘビー級準決勝/10分1R>
モハメッド・アリー(ブラジル)
Def. by 5-0
ニコラス・メレガリ(ブラジル)

立ち技の得意なアリーに対し、重量級屈指のガードプレイヤーのメレガリは慎重に襟を掴み、すぐ引き込みへ。そのままアリーの右足にデラヒーバで絡むメレガリだが、アリーは立った状態で絡んでくる左足を押し下げながら右足を曲げてフックを解除し、しゃがみこむようにベースを取る。

メレガリはアリーの襟と右足を掴むなどして下から揺さぶるが、アリーは重心を下げて腰を引いて守る。やがてメレガリが両腕でアリーの襟を取って引き付けようとしたところで、アリーは足をさばいてトレアナパスで右へ。エビで距離を取ろうとするメレガリに対し、アリーはメレガリの両足を両手で押し下げて低く重心を掛ける。重厚なアリーの攻めで、メレガリは持ち前のダイナミックな動きが出せないでいる。

02メレガリなんとか正対しようと試みるが、アリーはその両足をマットに押し付けながら左にスイッチ。肩でメレガリの太ももを抑えるように重心を掛けてじっくり侵攻するアリー。メレガリが再び距離を取って正対を狙うと、アリーはまた右に移ってさらにドライブ。ついにメレガリの腰を上体で押さえつけるところまで侵攻し、アドバンテージを取った。

03下半身を制されかけているメレガリはなんとかバタフライを作ろうとするが、アリーはさらに左に飛んでサイドに付くと、そのまま抑え込んで完全にパスを達成。大歓声が上がるなか、難攻不落のメレガリのガードを完全突破して3点を先制したのだった。

04下から跳ね上げようとするメリガリに対し、さらにアリーはニーオンザベリーも決めて2点追加。メレガリはそこで生まれた隙間を利用してなんとかハーフガードに持ち込む。すぐにニーシールドで距離を作りオープンガードに移行したメレガリはアリーの左足にオモプラッタで絡むが、アリーは抜く。

ならばとメレガリはアリーの右足を引き出し、肩で抱えてXガードからのスイープを仕掛ける。さらに左腕をポストして耐えるアリーのラペルも引き出して崩してバックを狙うが、アリーは体を翻して正対に成功。メレガリのガードに入った。

残り3分半。メレガリはアリーの背中越しに帯を掴んでの攻撃を試みるが、アリーはここでも重心を低くしてそれを遮断。さらに上半身に重心を掛けたまま左に飛び、メレガリの右足を超えるアリー。メレガリがガードに戻すが、アリーはさらに低い重心でメレガリの腰を殺す。

05タイムアップまで1分半。メレガリはガードを開いての攻撃に移るが、アリーは腰を引きメレガリの左足を潰し、それを超える。メレガリはそのままアリーを左に崩して上になろうとするが、アリーはダブルレッグで切り返して再び上に。メレガリはアリーの左足をはね上げてのスイープに移るが、アリーはそれをこらえると逆方向に飛んでバランスキープした。メレガリの様々な仕掛けに対し、アリーがことごとくその先を行っている。

さらにメレガリはオープンガードからの攻撃を試みるが、アリーは低いベースで腰を引いてそれをすべて遮断。結局、5-0で完勝して決勝進出を決めた。

昨年から恐るべき猛威を振るっているメレガリのオープンガードを、アリーがシャットアウト。その両足に体重をかけて低いプレッシャーで潰し、左右に方向を変えながら徐々にポジションを進めてパスまで持っていった動きは見事の一言だ。相手の下半身を潰しつつ一歩一歩段階を踏んで攻め登り、狙いは明白でも防ぎようの無い状態で完全にパスを取ったあたり、形は少し違うが、同階級のレジェンド=ベウナウド・ファリアのオーバーアンダーパスを彷彿させる完成度の高さだった。

11<スーパーヘビー級決勝/10分1R>
モハメッド・アリー(ブラジル)
Def. by 負傷棄権
レアンドロ・ロ(ブラジル)

06スタンドでしばし両者様子を見た後、ロがクローズドに引き込む。仕掛けを作ろうとするロだが、アリーが膝を中に入れてくると離れて距離を取った。スタンドで仕切り直した後、再びクローズドに引き込んだロ。再びアリーが膝を入れて前にプレッシャーをかけると、ロは内回りから崩しにかかるが、アリーが耐えるとロはまた離れた。

07三度クローズドに引き込んだロ。今度はすぐにオープンに移行すると、アリーはすかさず立ちに。その瞬間ロはアリーの両足を自らの足で挟み込んで崩す得意のクラシカルスイープに。バランスを崩されたアリーだが、すかさず腕をポストして立ち上がろうとする。ここでロはアリーの懐に入って猛然とドライブしてのテイクダウン狙いへ。

08大歓声があがる中、回り込んでそれを耐えるアリーは背中越しにロの帯を取ると、逆にロを振り回すようにスプロウル。両者の体が凄まじいスピードで回るなか、ロは右腕をマットに付いてから膝を付いた。そのままアリーがバックに回ると、動きを止めて自らの右腕の異常を告げるロ。マットに右腕が叩きつけられた時の勢いで、その肩を負傷してしまったようだ。

メディカルチームから治療を受けたロは、明らかに痛みのある様子であるにもかかわらず試合続行。残り約5分、テイクダウンで2点を得たアリーがバックに付いた状態から、試合は再開された。

09再開後、ロはすぐに動いて距離を取ることに成功。スタンドに戻った後、ロはまたしても引き込むと、アリーの入れてきた左足にデラヒーバで絡んだ。アリーがその足を押し下げて距離を取ると、ロはシッティングからアリーの右足を抱え、さらに潜りこむように右腕でアリーの左足を引き出し、立ち上がってのスイープを狙っていった。

10しかしアリーは取られた左足を簡単に引き抜いてしまう。ここで、再び右肩の違和感を訴えるロ。どうやら先ほど脱臼した右腕が再び外れてしまったようだ。結局ロは、そのまま試合続行不可能に。アリーが歓喜の初優勝を飾った。

結果論となるが、いかに怪物といえども、もともとライト級の選手が4階級上のスーパーヘビー級と戦うのは、肉体への負担が大きすぎたということか。「Size doesn’t matter」──大きさは関係なく勝てるのが柔術の本義とかつてホリオン・グレイシーは語ったが、それは柔術を知らない相手から身を護る場面での話。

アリーのような軽量級並の瞬発力を誇る重量級選手が続々現れる現代の競技柔術において、本来持つ体格差を乗り越えるのは容易ではない。これにより無差別級の決勝への出場も叶わななくなったロだが、今回の負傷によって改めて、この数年の彼の戦いが、いかに常軌を逸したものであったかが浮き彫りになったともいえる。

またメレガリ、ロという本命二人を堂々倒して初優勝を遂げたアリーの戦いの素晴らしさもまた、特筆モノだ。あのメレガリのガードを完全突破したパスは、重量級の体格を生かしたタイトなプレッシャー、自在に左右にスイッチする機動力とボディバランスを兼ね備えてはじめて可能な極めて完成度の高いものであり、また近年重量級戦線で猛威を振るっていたロの爆発的なスイープ&テイクダウンを切り返して負傷に追い込んだ動きは、スーパーヘビー級離れした迅速の反応と見事な体捌きの産物だった。

今まで元同門にして同世代の怪物エルベース・サントスの陰に隠れていた感が強かったアリー。しかし24歳の若者が今大会で見せた戦いは、近い将来この男が無差別級の世界の頂点に立つ可能性は高いのではないか、と思わせるほどのものだった。

■WJJC2018 スーパーヘビー級リザルト

優勝 モハメッド・アリー(ブラジル)
準優勝 レアンドロ・ロ(ブラジル)
3位 ニコラス・メレガリ(ブラジル)、マニュエル・ポンテス(ポルトガル)

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