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【Special】月刊、青木真也のこの一番:2月─その壱─ジェレミー・スティーブンス×ジョシュ・エメット

UFC FOX28【写真】UFC JAPANのプレスリリースでも見事なKO勝ちとしるされているジェレミー・スティーブンス×ジョシュ・エメット(C)Zuffa LLC/Getty Images

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2月の一戦=その壱は2月24日、UFC FOX28からジェレミー・スティーブンス×ジョシュ・エメット戦を語らおう。


■「勝ったヤツが正しいんです」

──1月の月間・青木賞の該当者がなぜ、いなかったのかという話題から、本題の2018年度2月の青木真也が選ぶ、この一番に話を戻させてください。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。

「ジェレミー・スティーブンスとジョシュ・エメットの試合ですね」

──スティーブンスの後頭部へのエルボー、グラウンド状態でのヒザに物言いがつかず、そのまま勝利になった試合ですね。

「あれは……まぁ、やったもの勝ちですよ」

──そうなりますか。

「僕の解釈はアレも技術のうち。押し切ってしまったので。『反則だ』、『反則じゃない』という声があがろうが、『俺の勝ちでしょ』って火事場泥棒みたいに押し切ってしまったので。

ジェレミー・スティーブンスの勝ちですね。まぁ言えば、佐藤ルミナ×アウグスト・フロタもそうだったし。ルミナさんは自分のホームという立ち位置の違いがあるかもしれないけど、反則だろうが反則でなかろうが、反則と審判が判断しなければ反則じゃない。そういう意味であの試合は僕的には乗れました」

──ルールが存在するのに、反則があるかもなんて戦うとルールが無意味にならないですか。そこまで想定して戦わないといけなくなると競い合いとして根本が崩れるかと思います。反則を思わず犯してしまうことは選手もあるでしょう。勢いのまま攻撃して。それとは別にその場で見て、おかしいと思ったものがまかり通ってしまうのは怖いです。

「あぁ、それは僕は違うな。やっている側なので、やられたらしょうがないし。弱いから負けたとしか思わないです。もし、自分がやられたとしても。

それは以前からステロイドに関しても同じだったじゃないですか」

──ハイ。その通りですね。相手が使っているものだとして戦うと。

「それと同じですよ。相手がステロイドをやっているから、僕は負けて良いんです──とはならないです。相手がステロイドをやっていても、勝たないといけない。相手が体重オーバーをして、僕と体重が違っていても勝たないといけないんです。試合をする以上は。

だから相手が反則をしようがしまいが、勝たないといけない」

──青木選手がそう思うのは、ファイターとしての気概ですよね。そういう風にファイターが思ってくれるからこそ、不正は正さないといけないと思います。反則を見落とすのは、日給もらってレフェリングをしているプロフェッショナル・レフェリーの落ち度。加えて、コミッションも相当な額をプロモーションから受け取り、イベント開催を認可しているのだから、なおさらです。

「生業ですからね。だから、ファイター側の意見としては弱いヤツが間違いで。勝ったヤツが正しいということなんです。レフェリーになった時、どうだというと……アレを止めるのは難しくないですか。それに誤審ってどんな競技でもあるから」

──あります。

「それは解釈の違いで、後から試合結果が覆るのはおかしいですよ」

──人間がジャッジしているスポーツだから、ミスもある。それも理解できます。ただし、あの試合は画面を見ていて、アッ反則だって思いましたし。間近で見ているレフェリーが気付かないのは職業としているのに、ダメですよ。急所に入っていない蹴りでも、止めることがあるわけだし。疑わしくは罰しろまでとは言わないですが、疑わしくは止めろというのがMMAの審判ではないでしょうか。

「反則とするかどうかは抜きにして、反則だったかもしれないとブレイクを命じると。う~ん、レフェリーすら欺いたと僕は捉えています。スティーブンスの勝ちです」

──それはスティーブンスの立場ですよね。

「ハイ。レフェリーがダメって言わなければ、技術になってしまうので。ただ、レフェリーって大変な仕事ですよ」

──レフェリーはgood jobといわれない仕事で、good jobが当たり前です。何かあると責められる、大変な職務ではあると思います。

「立ち位置ですね。僕は島田裕二レフェリーってイベントの成立を考えると、凄く妥当だと思っているんです。お客さんが満足して家路につく、そこを目的にしている人だと思うし。だから、僕は彼が試合を止めなくてケガをしても、文句はいわない」

──島田さんはプロモーターの意志を明確に反映できるレフェリーだと思います。プロモーターが遅めなら遅い、早目に止めろというところはしっかりと早い。

「そう。僕は早く止められると、早いだろうって文句を言いたくなるから。僕もそうだし、プロモーターとしたら、あそこでレフェリーが反則かもってブレイクを命じたら、『お前、なに試合を壊すんだ』ってなるかもしれないですね」

──だから、あのまま流したという部分に通じていると思います。

「そういうモノだと思っています。判定についても、文句を言うことはないし。それを覚悟しているので、それが嫌なら試合をするなとファイターには言いたいです。

レフェリーに関しては、大変ですね。災難でしたね、と。運が悪かったと思います。そしてエメットは弱いから負けたんです。

僕がメチャクチャ強かったなら、あの状況にならない。極論ですけどね。子供の頃から『ミスジャッジも何も、お前がその状況になったから悪い。明らかにお前が勝ったと思える状況になれ』と柔道をやっている時から教育されていたし。

だから勝負ごとをやるうえで、勝ったヤツが正しいんです──と思っちゃう(笑)。勝利が正しさの一番の最上位だと捉えています。ここは違うと言う人は相いれないだろうし、落としどころを見つける必要もない。色々な見方があるということです」

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