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【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月編─その弐─和田竜光×ランボー宏輔「もっと評価されるべき」

Wada vs Rambo【写真】距離間など参考にすることもあるという和田の強さを青木が語る(C)KAORI SUGAWARA

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。


組み&寝技の人の打撃への造詣が深い

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背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ9月の一戦=その弐は9月16日、DEEP79から和田竜光×ランボー宏輔戦を語らおう。

和田という実力者の青木評、そして業界への憂いが語られた。

──関根選手とンガラニに続き、9月のMMAから青木選手が選んだ一番は?

「DEEPの和田君とランボー宏輔の試合ですね。和田君はローキックもそうだけど、自分で考えてやっていることが凄く多いです。独創性があるというか、想像力が豊かで。

スネへのローってキャッチされないからテイクダウンを取られないとかって注目を浴びるようになったけど、ムエタイにはないんですよね。足をキャッチして倒さないし、ちょっとしたチェックで、自分の方が壊れてしまうから、そんな危険な部分を蹴る必要がない。

でも、MMAはテイクダウンがあるし、そこで和田君は自分の足が壊れないようにインサイドでなく、アウトサイドで蹴っている。僕も和田君には『教えてッ!』ということが、よくあります。

距離の設定とかでも、彼から学ぶことは多い。和田君の一番長い距離はローキック。僕の場合はミドル。でも、和田君の試合は距離が近く見えるんです。そして触る距離になると、組んでいく。ローの距離かゼロ距離。近くになると、どれだけハードパンチャーと戦っても倒されない。そういうことを考えて、自分で組み立てているんです」

■『勝っていることと強さが評価されないと、何をすれば良いのか分からなくなってしまう』

──和田選手が実力者であることは間違いないのですが、青木選手がそこまで評価しているとは知りませんでした。

「いや、良い選手です。近付いてからのクリンチの使い方も、参考することが多い。その和田君が去年ですね……さいたまスーパーアリーナに29日の方は僕も見に行ったのですが、あそこでカイ・カラフランスと戦った。彼が大観衆とはいわなくても、それなりの数のお客さんの前で花道を歩いて試合をした。

そこで何かを掴もう、MMAでサクセスしようという表情が凄く格好良かったんです。RIZINの物差しでは評価される試合ではなかったかもしれないけど、やっぱり試合もしっかりとしている」

──TUF24出場の選手を完封したのは、本当はUFCこそ評価してほしい戦いでした。

「だから和田君にはできる限り、多くのモノを掴んでほしい。そう思える選手なんです。でも、フライ級トーナメントがなくなって、周囲に振り回されている現状が切なくて、なんとか日本のMMA業界はならないのかって思います。

強さが100パーセント評価される大会でなくて良いんです。でもMMAファイターは勝っていることと強さが評価されないと、何をすれば良いのか分からなくなってしまいます。だから、これは無いよなと。

UFCがフライ級の選手を取らなくなったなかで、和田君のような良い選手が現状に翻弄されるのは良くないし、業界としてMMAが寂しいですよ。UFCというか、日本に対するUFCの取り組みですよね」

──確かに井上直樹選手が欠場して、代役がなかった。これが上海大会から、他の中国人選手と契約していたかもしれない。

「極力、頑張っている人、強い人が評価される舞台であってほしい。さっきも言いましたが、和田君の技術体系は自分で創りあげたモノなんです。凄く魅力的なのに、あのポジションにいることは勿体ない。

彼は今、一番強い時じゃないですかね。28歳、29歳というのは。ここ2年、3年が一番稼ぐことができる時期、だからもっと試合機会を与えてほしいです。そしてお金だけでなく、知名度を得てほしいと思います」

──過去5年で修斗、パンクラス、DEEPがUFCのフィーダーショーという位置に落ち着いた。そしてRIZINができた。ただし、3つの大会のトップが皆、次の舞台に行けるわけじゃない。この抜けの悪い状況により、各階級の国内での選手層が再び厚くなってきているので、ここで勝ち残った選手は地力がある。繰り上がり当選でないし、どう若い選手が上の世代を食っていくのか。

「いやね、35歳とか超えた選手がそれなりの額をもらって国内で戦うって、それこそ老害だと思う」

──それは下の世代の選手が勝つしかないのでは。

「それはそうなんですけど、なら適正価格でやれって。キャリアがあるから付き合いで使ってもらうのって、まさに老害ですよ。僕はそう思います。俺はその市場にいないし。僕こそ老害の典型かと思われるかもしれないけど、そこにはいないから」

──所属系のプロスポーツは長年やっていると年俸は上がっていきます。だから、逆に経済の論理の前に力はあっても契約が切られる。そして、ステージが下がるというのはサッカー選手などでは良く見られます。

「それがないですよね。なんで、使うんだろうっていう選手が試合に出ている。まだね、力があるなら良いです。力もないけど、ちょっとした名前がある。それなら、若い奴らの面倒みてやれよって。僕は本気でそう思います。

先がないんだったら、若い選手よりも良い金もらってやり続けているんじゃなくて、他へ行くか適正価格で戦えって」

──その選手のチケットの手売りなど、現状の日本では色々な要素が絡んできますが、適正価格をどう考えるかですね。貰えるだけ貰える方が良いですし。ただし、下を育てないと自分の将来も先細りになるというのは、私の仕事ではよく考えることです。

「そう、そういう部分で自分が世話になった業界、スポーツに何かを返すという気持ちがないだろうって。それは寒しいし、寂しいですよ。最大公約数で笑顔が増える。そういう落としどころはどこなのかなって」

──これだけ色んな人を言葉で突き刺してきたのに、願いはそこにあると(笑)。

「ハハハハ、でも、これはマジメな話です。できる限り、多くの人が笑顔になれる。多くの人が潤える業界になって欲しいですから。今は我慢の時期なのかもしれないですけど、それもいつ終わるか分からない。話を戻すと、和田君とか本当にもっと評価されるべき選手なんです」

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