この星の格闘技を追いかける

【AJJC2017】橋本知之─02─「MMAが柔術より上? 今付き合っている彼女が一番と言っているのと同じ」

Tomoyuki Hashimoto【写真】これが橋本が戦う、姿勢。その橋本もレスリングベースのMMAファイター、鈴木隼人らと交流がある(C)MMAPLANET

9月8(金)から10日(日)まで、東京都足立区にある東京武道館で、IBJJF主催のアジア柔術選手権2017が開催される。IBJFFの4大国際戦の一つで、黒帯ルースター級2連覇を目指す橋本知之インタビュー後編。

今回は青木真也の『MMAは柔術より上』という発言を受けて現状の競技柔術で日本人男子柔術家として最も上位の結果を残している橋本は何を想ったのかを尋ねた。
Text by Takao Matsui

<橋本知之インタビューPart.01はコチラから>


――7月にはロシアで開催されたACBプロ柔術の60キロ・トーナメントに出場しました。日本では余り知られていませんが、かなり規模が大きいトーナメントのようですね。

「はい。ライトフェザー級トーナメントで8名が参加し、自分は1回戦でラエルシオ・フェルナンデスと対戦しました。2012年の世界選手権黒帯ライトフェザー級で準優勝した選手です。

5分3ラウンドで戦い、ラウンドごとにポイントがつき、1Rは同点でしたが、2&3Rは2-0と差がついて判定負けです。優勝は、ジョアオ・ミヤオ選手でした」

――IBJJFのトーナメントとはかなり違った形式なのですね。

「相手が昔の選手だったので行けるかなと思っていたのですが、フィジカルの差が出ましたね。前日計量だったので、当日の対戦相手は5キロくらい重くなっていたように思います。

自分は計量しないで臨みましたので、体重が重い上にトップクラスの選手が出ていましたから、厳しい戦いになりました。でも、良い経験になりました。初のロシアでしたし、他の階級ではパウロが足をぶっ壊されても優勝していたので、ヤバイなと思いました。機会があれば、また参戦してみたいです」

――大会の話題とは関係ありませんが、MMAPLANETでは柔術家の方々に青木真也選手の柔術&MMA論について尋ねていますので、ぜひ意見を聞かせてください。

「ああ、読みました。いろいろなことを話していた印象がありましたので、何から言えばいいんですかね?」

――橋本選手はブラジリアン柔術とMMAをまったく別物と捉えているのか、それとも同一線上に存在しているのかを教えてください。

「まったく別物です。僕は、MMAをやっていませんから。MMAの試合を観るのは好きなんですけど、置き換えて考えたことはないです」

――このポジションだと、殴られるなど意識したことは?

「考えません。ブラジリアン柔術の試合では殴られないじゃないですか。殴られない中で、どうやって勝つかを考えるのがブラジリアン柔術ですからね。考える必然性がありません。

あと……、どちらが強いとか弱いとか言っていたと思いますけど、僕の中ではどうでも良いんですよね、そういうことは」

――ブラジリアン柔術の選手とMMAの選手が戦ったら、という仮定での話で?

「それはMMAの方が強いんじゃないですかね」

――それはMMAルールを想定した場合ですよね。それともストリートファイトですか。

「うーん、そもそもストリートファイトの定義って何なんですかね。僕には、それが分かりません」

――武器を持たずに1対1の決闘ですかね。

「それ、設定に無理がないですか?(笑)」

――まあ、かなりありますけど(笑)。

「中学生の頃は、マンガとかでそういう世界を考えたことがありましたけど、大人になっていくと分かってきますよね。日常生活を送っていると、そういう状況はまず遭遇しないし、面倒なことを避けた方がいいということを」

――酔っ払いに絡まれたら?

「できるだけ面倒なことにならないようにしますが、手を出されたら警察を呼びますね」

――知り合いがイジメにあっていたら?

「社会に出てイジメられるとしたら、直接的なことよりも、むしろ経済的な制裁だったり、精神的に追い込まれる方が多いと思います。パワハラとか無視とか。暴力はもっと低いレベルの話ですよね」

――現実を考えればそうなのですが、依然として『最強の格闘技は何か?』というテーマをロマンとし、そこを追及する格闘家や、それをテーマにイベントを開くプロモーターもいます。仮に柔術家がMMAファイターとノールールで戦ったらとか。

「ノールールってよく分かりませんけど、打撃があるのならばMMAの方が強いんじゃないですか。MMAは、それで戦っているんですから。仮にカイオ・テハがUFCチャンピオンとそういうルールで戦えば、UFCチャンピオンが勝つと思いますし」

――そこは認めざるをえない?

「認めるというか、そうなるんじゃないですか、普通に」

――そうなるとMMAの方がブラジリアン柔術よりも上位と考える人も出てきます。

「べつに上とか下とか、どうでも良くないですか? 単純に違う競技の比較とかできないし、ましてや上とか下はその人の感覚の問題でしかないです。

今は青木さんがMMAを頑張っているので、そういう発言になるのかもしれませんが、思うのは自由ですからね。今付き合っている彼女が一番と言っているのと同じことで、そこはどう表現しても個人の自由ですよね。僕は、そういうことはイタイと思っているので言いませんけど(笑)。

人それぞれで良いと思いますけど、僕は自分が好きだったら一番でなくても良いです。ブラジリア柔術は好きですけど、何かに比べて一番でなくてはいけないと思ったことは一度もありません」

――ブラジリアン柔術が、もっとメジャーになって欲しいという思いはありますか。

「それはありますけど、最悪、メジャーにならなくても良いです。僕は、ブラジリアン柔術をやるのが好きなので。そこが崩れなければ満足できると思います」

――それが柔術家としての誇りなのでしょうか。

「プライドとか誇りって、アバウトなのでよく分からないです」

――自分の好きなモノの価値がさらに上がって欲しいとは?

「世界的にブラジリアン柔術は、凄く広まっているし人気もあります。あえて僕なんかが言わなくても、良いんじゃないですか。みんな面白いと思って始めているし。

MMAに興味を持ってブラジリアン柔術を始めた人もいるし、そこはその人のチョイスですよね。誰もやらなくなったら考えないといけませんけど、競技人口が増えているのは間違いないですから」

――橋本選手は当初から青木発言に関して『イイね』をしていましたね。

「僕は好きなんですよ、青木さんのことが。昔から好きで、MMAを見ていて応援していたんで。UFCを中心に見ているので、最近は見る機会が減りましたが、インタビューとか本音で語っていて好きなんです。無難な発言をするよりも面白いじゃないですか」

――ブラジリアン柔術のことを攻撃してきても?

「悪意は感じないんですよね。今回も、上とか下とかないことを分かった中で、あえて上とか言っただけのように感じましたし。彼なりにMMAに対する熱さを語っているだけで、むしろその姿勢にリスペクトを感じています」

――現状、日本人柔術家がムンジアルの黒帯で優勝するのと、日本のMMAファイターがUFCで世界王者になるのと、どちらが難しいと橋本選手は思われますか。

「見た感じですけど、UFCかもしれないですね。でも、どうだろう……。UFCも重い階級は日本人がまったく歯が立たない感じですから、可能性があるのは軽い階級と考えれば、ブラジリアン柔術と同じような状況かもしれませんね。

軽い階級の日本人でもチャンピオンクラスと対戦したら、勝てないという結果も僕らと似ているように思います」

――なるほどぉ。最後に、橋本選手はMMAを戦うことを考えることはありますか。

「考えていません。僕はブラジリアン柔術の技術で生計を立てていきたいと思っています。

ブラジリアン柔術の選手でも、MMAに向いている選手とそうではない選手がいると思います。アウグスト・メンデス・タンキーノとかは、ブラジリアン柔術で強いことは間違いないですが、テクニックに魅力がないというかMMAをやってこそ生きるタイプのように思えます。

カイオ・テハとかはテクニックのレベルが高くて勝っている選手なので、オンラインテクニックをはじめブラジリアン柔術一本で生活できています。あえてリスクを背負ってまで、MMAに挑戦する理由がありません。

あとはアリ・ファリアスとかフィジカル系で、テイクダウン、パスがうまい選手がMMAのルールにマッチしていると思います。

ブルーノ(・マルファシーニ)もMMAをやっていますが、彼のオンラインテクニックを見たいとは思いません。そこは、カイオには100パーセント勝てないと思います。

ブラジルや米国の柔術家でMMAもやっている選手がいるのは、世界チャンピオンがあれだけ多く輩出されている国なので、当然といえば当然ですよね。

アスリート系とテクニック系で分類されるとしたら、前者がMMAに挑戦しても通用する可能性がありますし、後者はブラジリアン柔術で特徴を生かすことができる。自分の特徴を見極め、どちらの道に行きたいのかが重要ではないでしょうか」

PR
PR

関連記事

Movie