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【HEAT38】宇良健吾を血の海に沈めた岸本泰昭 「サウスポーを取り入れて幅を広げようと」

yasuaki-kishimoto【写真】勝利後の岸本。グローブのテープは本来は白だが、返り血で真っ赤に染まっていた(C)MMAPLANET

9月25日(日)、HEAT38で宇良健吾との崖っぷちライト級対決を制した岸本泰昭。この試合で岸本のスタイルに一つの変化が見られた。

構えを変えることで、岸本は何を手にしたのか。そして、フィニッシュへ移行できなかった理由とは何だったのか。攻勢故に陥った滑りやすい状況とは──戦った当人にしか分からない真実が知られることとなった。


──試合後、マイクで何かアピールしようとしていたのですが、その機会が与えられませんでした。何を訴えようとしていたのですか。

「せっかくHEATに出場させてもらえたので、勝てて感謝の言葉。そしてお客さんにもお礼が言いたかったぐらいです(微笑)。でも、無くて正解でした」

──というのは?

「試合後に三島(☆ド根性ノ助)さんや、(ストラッサー)起一さんに『あれだけ制圧していたんやったら、最後はマウントからパンチを入れてバックチョークと狙わないといけない』って注意されたんです。その通りだと思います」

──結果が一本取れるかどうかよりも、その姿勢が見たかったというのはお客さんもあったかと思います。セコンドも確かに『マウント取れ』という指示をだしていましたね。

「あれは血が滑り過ぎて、マウントに行くとバランスを崩すなって思ったんです。切れているし、終わるしなっていう気持ちだったんですが、今から思えばラウンドの残り時間が少なくなっている時は仕掛けても良かったですね。

あれだけ血を浴びると、ここまで滑るのかっていうのがあって、自分のなかで守りに入った部分がありました。胸を合わせているだけで、ズレまくって。だから両ワキ、あるいは片方を取って抑え込んでいたんです」

──レッグドラッグでも抑えていましたね。

「あれも滑るからですね。ドクターチェックから戻ると、サイドになっていましたけど……手堅くいきました。ただ、2Rが終わった時に起一さんから『もう極めないとアカン』ってガッツリ言われたので、3Rはテイクダウンを取ったらフィニッシュするためにマウントを取るつもりだったんです。

自分でも手堅過ぎるなって感じていたら、3Rはなく試合が終わってしまった形になりました」

──あそこまで攻めていたら、というのはどうしても残ってしまう勝利ではありました。

「そうですね。滑って下になったからといって、そこから負けることはなかったはずですし。下からでも攻めることはできたはずですからね。あそこまで支配していたなら、続行不可能のTKOでなく、フィニッシュしないといけなかったです」

──今回の試合はサウスポーから、左ミドルハイのような蹴りがいきなり宇良選手の顔面を捉えました。

ここから宇良の顔面を蹴り抜いた(C)MMAPLANET

ここから宇良の顔面を蹴り抜いた(C)MMAPLANET

「一応はノーモーションで左ハイを狙いました」

──ちょうど宇良選手がボディを打ってきた時でした。

「あれで切れましたね。そのあとスタンドのパンチもあったかもしれないですが、寝技でのエルボーと合わせ3カ所ぐらいカットしていました。自分のやった攻撃なんですが、『これエェんかな』って思いながら続けていたんです」

──血の匂いがケージサイドまで漂ってきました。

「戦っていてもきつかったです。血なまぐさいというか、水っぽいというか……。でも、スタンドでの戦いもこれまでは打撃を振って組もうという感じだったのですが、チャンスが来るまで打撃で行けるという手応えを感じることができました」

──初回は宇良選手の方が組みに来て、そこを万全の形で切り返して四つ組みを制しました。

「あそこは得意の形ですからね」

──2Rはサウスポーからオーソにして、左を見せてから組み付きました。サウスポーに構えを変える点が今回の戦略的ハイライトでしょうか。

「今回はサウスポーで構えました。9割はサウスポーですね。で、これまでオーソやったのにオーソからのパンチがしっかりと打てなくて(苦笑)」

──サウスポーで構えるようになったのは?

「練習していても息詰まっている感じがありました。で、気分展開もあって、サウスポーの練習を3月に下石(康太)選手に負けた時に取り入れるようにしたんです。このままじゃアカンって感じで。現役を続けるなら、変えないといけないし、変わらないといけない。サウスポーを取り入れて幅を広げようと試みてきたんです」

──サウスポーで構えてみて、これまでと比較して変化は感じられましたか。

「左手が後ろにあると、距離が取りやすく安心して戦うことができるということに気付きました。何かあると、後ろにある左を振るっていくこともできるんです。その安心感を三島さんに話して、今回セコンドに就いていただいたSFKの寒川(慶一)さんや吉鷹(弘)先生からも『サウスポーの方がエェかもね』ってアドバイスをいただいて……それで構えを変えることにしたんです。

四つ組みの強さは定評のある岸本だけに、スイッチを取り入れ組むまでの展開が進化すると、より大きな武器となる(C)MMAPLANET

四つ組みの強さは定評のある岸本だけに、スイッチを取り入れ組むまでの展開が進化すると、より大きな武器となる(C)MMAPLANET

サウスポーを取り入れたことで、組みもアレンジすることができるようになり、その部分でも幅が広がりますね。それにこれまでの蓄積があるオーソで戦うことができますし。もうちょっと頑張れるかなと」

──上迫クルーズに倣って、岸本・上迫クルーズに?

「そこ上迫が入るんですね(笑)。岸本クルーズじゃなくて。でも、僕はそこまでのスイッチはいらないです。サウスポーやオーソに変えてローを纏めた直後にパンチをまとめて被弾しましたし(苦笑)。で、すぐに組みに行ったんです」

──その結果、本当に落とせない一戦をモノにできました。今後に関しては?

「本当にチャンスがあれば、どんなもんでもモノにしていきたいです。この歳になっても一歩、一歩積み上げるしかないので。年内にもう1試合、戦いたいですね」

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