この星の格闘技を追いかける

my younger brother who lives in the Netherlands

2012.02.02

Martijn【写真】腹回りだけでなく、人間としても一回り以上大きくなったマルタイン。彼にそんなつもりはないかもしれないが、僕にとっては弟のようなゴールデン・グローリーの中心人物だ。

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年12月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

さすがに娘が3人もできて、3LDKのアパートに住んでいると、もう、外国人選手が、家のどこかで寝ているなんてことはなくなった。

まだ家内と二人で下落合の1LDKのアパートに住んでいた当時、そして今の家にやってきてから最初の4年間ぐらいは、それこそ5ヶ国語が飛び交うなかで、鍋をつつくなんてこともあったけど。ヒンドゥー教徒に牛肉抜きのスキ焼を作ったことはないけれど、ムスリムのために、豚肉なしの鍋を用意したことは、本当にあった。

その後、北米メジャーで世界王者になった選手から、サンドウィッチチェーン店で成功している者、パクられてしまったヤツ、家内の手料理を食べた格闘家は、内外合わせて、どれくらいになるだろうか。

世界を放浪しているときに、見知らぬ人たちの優しさによって、何度も助けてもらった。今度は僕らの番。日本で練習したいという意思を持った金のない連中のサポートを何も言わず、許してくれていた家内だったが、2人目の娘の妊娠を機会にギブアップ宣言がでた。

当然だ。それまでが、よく許していてくれていたなと思う。


今、海外で取材をして、懐かしい顔に会うや、必ずといっていいほど家内の近況を尋ねられ、「お前ばかりでなく、XXも一緒にこっちに来い」と言われる。ただ、そんなファイター達と、僕らに特別な繋がりがあるかといえば『ノー』だ。東京の宿泊事情に苦しみ、夢はあっても金のない連中に、余った空間を貸し、食事を提供していたに過ぎない。

そんななかで、特別な人間がいるとすればアンドレ・ベンケイと、マルタイン・デヨングの2人になる。

「ベンケイとマルタイン、そしてマルタインの弟子たちだったら、泊まってもらっても良いよ。寝る場所も、本当になくて、前みたいに食事も手の込んだモノを作れないけどね」と、家内も言う。言うなれば、ベンケイは兄であり、マルタインは弟だ。両親が共に違う兄弟が別の大陸にいる僕は、とても楽しい人生を送っていると思う。

「修斗のジムで練習したいんだ」。オランダ取材で2度ほど会ったことがあるマルタインが、初めて我が家にやってきたのは、確か97年だったと思う。初めて会ったときから、本当に下らないジョークで大笑いするヤツだった。

いつもはTシャツとジーンズだけど、六本木に行くために、洒落たシャツとパンツを必ず持ってきていた。ただし、ずっとスーツケースにいれっぱなしなので、洒落こみたい日には、大抵くしゃくしゃになっている。

一度、マルタインと一番弟子ラフロス・ラロスが、パンツとタンクトップでストーブの横で正座していたことがあった。でっかいのを二人座らせて、身長150センチの家内が、彼らの洒落衣にせっせとアイロンを掛けている。そんなマルタインの滞在中、金曜早朝の便でバンコクへ行き、日曜の夜に戻ってくるという取材があった。

「絶対にタイになんて行っていない」と信じないマルタインの話を、ある人に話した。すると、『嫁さんと外国人2人? 危なくない?』という言葉が返ってきた。何を言われているのか、本当に理解できなかった。彼の言わんとすることが分かった時、思わず『そういう風に思う人に、家内には会ってほしくない』と言い捨てていた。(あんた? 自分の留守中に弟が親友と家に泊まりに来て、そんな下らない心配をするんか?)

マルタインとは、日本人の誰よりも本音で言い合ってきた仲だ。とある事情で、命を賭けていたといっても過言でない雑誌の仕事から離れるしかなかった時、「谷を下りれば、道はまた山を登るんだ」とマルタインが言ってくれた言葉が、今も僕の支えになっている。

欧州の格闘技界と比較して、何事にも厳格な修斗のやり方に、ヤツが疲れて、他のプロモーションのいい加減さを例に挙げ、愚痴を言った時、「誰かが赤信号を渡っているからといって、自分も一緒に渡って良いってことはない」と苦言を呈した。マルタインに言い放った言葉が、自分自身への戒めになっている。

なぁんて、センチになる僕を他所に、ごく最近マルタイン・デヨングは大金を稼ぐ友人と一緒に赤信号を渡ることなく、踏みとどまっていた。そんなマルタインの往く道が、山の頂上に続いていることを信じたいし、『我が異父母・兄弟も楽しい人生を送っているな』と心底思う。

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