この星の格闘技を追いかける

【Column】「常夏の島のお調子者」

2011.10.17

TJ in Gotch
【写真】高円寺にあった格闘技ファンの集まる居酒屋ゴッチで、店長の源也さんと、佐藤ルミナとの激闘で日本のMMA史に名前を残すヒカルド・ボテーリョ(左端)と、ロン毛時代のTJ・トンプソン。いつの写真かは、忘れてしまった……

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年7月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

エリート・エクストリーム・コンバットが8月27日に復活するというニュースが耳に入ってきた。

EXCといえば、2007年2月から翌08年10月まで活動していたMMAプロモーションで、CBSのMMA中継を実現させ、ジナ・カラーノやキンボ・スライスという、スター選手を生み出したが、負債50億という大型破産に追い込まれている。

そんなイベントが、エリートXCの経営母体プロエリートにICONスポートを売却したTJ・トンプソン、ズッファ・ストライクフォースにカットされたリッチ・チョウの手によって復活する。この知らせを聞いて、まず思ったことは『ホント、TJはMMAが好きなんだな』ってことだ。


東部出身、某エリート大学を卒業のヤッピーながら、男性ストリップ集団の一員となり、世界ツアーに出発。ハワイに流れ着き、UFCに感化されると、ホノルルの寂れたストリートにあるバーで、寝技で関節技禁止、パウンドのみ有効というフューチャー・ブロウルという喧嘩大会を手掛けるようになった。

TJ【写真】99年5月にインディアナポリスでモンテ・コックスが開いたエクストリーム・チャレンジで、リングアナを務めるTJ。この大会には当時のUFCのマッチメイカー、ジョン・ペレッティがレフェリーを務めていた

その後、競技面はAMCのマット・ヒュームに、プロモート&マネージメント面はモンテ・コックスをお手本としたTJは、地元のローカルファイターと、パシフィックノースウェスト=AMC系、ミッドウェスト=コックス系のファイターを登用。3年後には、スーパーブロウルと名を変えた大会を、常時3000人から8000人超の集客力を誇るイベントに成長させた。

日本とハワイ、地理的関係もあり、ハワイアンMMAファイターをプロ修斗にブックするようになった。ファイターと一緒に来日し、プロ修斗に惚れ込んだ彼は、僅か3000ドル~というTV使用料を手にし、日本からファイター&レフェリーを招聘、さらにコミッションへのサンクションフィーを納めて、修斗公式戦を開催するようになった。

99年6月の第1回大会には五味隆典、植松直哉が参戦。9月には郷野聡寛、中尾受太郎、その後もマモル、佐藤ルミナ、須田匡昇がハワイのリングに上がっている。同時にプロモートを始めたグアムでもレッドスレイヤーガイ、加藤鉄史ら日本勢ばかりか、豪州修斗からラリー・パパドポロスの弟子たちにまで試合機会を与えていた。

これほど修斗の普及に、外部から協力した人間はTJぐらいだろう。

そんなTJだが、MMA好きは別にイコール修斗好きということではなく、モンテの依頼でRINGSのジャッジを行った。これが原因で、修斗のプロモーター・ライセンスを剥奪されてしまう。

八百長を行ったプロモーションと関係を持たない――という当時の修斗側の主張は、その後のPRIDEと彼らの関係を考えれば、如何にチャイルドチックだったか理解できるだろう。特に北米育ちのTJは、理解不能な処分だったに違いない。

それでも、再びプロ修斗を開催するようになった彼だが、修斗がプロモーションタイトルを廃し、地区タイトルに統一するという基軸を打ち出したことで、公式戦開催を諦めることとなった。

「修斗には本当に感謝している。MMAをスポーツとして開催するのに、何が必要かを教えてくれた」と言った直後に、ウィンク、さらに舌を出すTJ。

決して正直者ではないかもしれないけど、ペテン師ではなかった。人の良い、ノーと言えない物凄いお調子者といったところだ(ノーは言えなくても、嘘は言える<笑>)。

97年12月UFC-Jを観戦するために来日し、その前日にトーナメント・オブ・Jを駒沢で観戦。98年6月、アムステルダムでキックボクシングを取材中に、観客席でTJとスポンサーのポルノ映画の監督に会った時は、本当に驚いた。MMAだけなく、キックを見るためにオランダへ赴く。もちろん、他にも目的はあったに違いないが、そんなMMAプロモーターはTJしか知らない。

TJ・トンプソンが、地元ホノルルで開くエリートXC。資金か限られてもいても、ゲーリー・ショーが開いていたブルシットな大会より、ずっとずっとMMAファンのハートに届くイベントになるに違いない。

あぁ、7年振りに常夏の島を訪れたくなってきた(って、その日は常夏は常夏でも、南半球のリオデジャネイロにいるので絶対無理なんだけど)。

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