この星の格闘技を追いかける

特別座談会後編 “試合前は選手、試合後は人間”

2008.07.29

格闘技専門誌の老舗「ゴング格闘技」と、海外総合格闘技(以下、MMA)情報配信専門サイト「MMAPLANET」の提携が始まった。

【写真】DREAM.5大特集号となった『ゴング格闘技(9月号)』、海外MMAレポート「BeaconSign」も充実の一言 (C) GONG KAKUTOGI

この機に実現したゴング格闘技編集長・松山郷、MMAPLANETメインライター・高島学、MMAPLANETプロデューサー・川頭広卓による座談会。後編となる今回は、ネットと雑誌、その役割を考えた――。


【座談会前編はコチラ

松山「サラッと始めるというのは?」

高島「特別なことじゃない。普通に伝えないといけないことを大仰にすると、それはもう特別なことになってしまう。多くの人の入口となるので、格闘技界はいままでやたらとコアと一般という判別がされてきましたが、PRIDEブーム以前はいうなればK-1以外はすべてコアだった。一般かコアかと問われれば、コアであることが普通だったんです。

格闘技が特に好きな者が専門誌を買っていた世界。今や格闘技ファンや業界の人間こそ、MMA PLANETを見て特別視するかもしれないですが、サッカーファンや野球、芸能からリンクしてくる人たちにとって、これが普通にある情景として捉えてほしかったんです」

松山「サラッと始める、特別なことか大げさなことか、どちらにしようが、まずは自分たちが扱うモノに夢がないと誰もお金を払わないし、そこを目指そうとは思わないですよね。以前、PRIDEを観て選手になろうと思った人が少なからず世界にいたように、日本では、例え地上派に乗らなくても、急速に世界で人気を獲得していて、その最高峰を目指せる舞台が本当にあって、そこで日本人も戦っているという事実は夢がある。その強豪ばかりが集まるリング上で何が起きていたのかさえ、伝えられなかったら日本は取り残されてしまいますよ」

高島「PRIDEがある時代から、僕はUFCを伝える立場だった。『ええもんがある』から伝える。これは基本だと思うんですよね。どうしてもPCから伝わる印象だと、淡白に映ってしまうかもしれない。だからこそ、雑誌はディテールがしっかりと残るから一緒にやれるのは、凄く良いことだと思っていました。例えば、MMA PLANETでやったジュカオンのインタビュー写真にしても、きっと印刷物として手に取ったら、また印象が変わると思うんです。ただ、僕はMMA PLANETとやるというお話をいただいたときに、ネットだから軽く捉えるということだけはしないと肝に銘じていました。伝え方は確かに違うけど、クオリティに差はつけないと」

松山「なるほど。時間的な問題、物理的に取り扱えないモノもありますよね。なので、トキーニョの試合やインタビューがMMA PLANETに載って興味を持って貰えて、雑誌を読んでもらえる。そういう考え方もありますよね」

高島「川頭さん的にMMA PLANETの存在意義を再確認したのは、エディ・アルバレスのちょっとしたブレイクだったんですよね?」

川頭「そうですね。これまでにも日本に来てはいるんですけど、アルバレスが出てきて、周囲が騒いだ時に、MMA PLANETでは既に“カリスマ”というキャッチがついて載っていた。しかも、その大会はEliteXCの人材育成大会ShoXCだったんですね。だから、MMA PLANETのユーザには、彼だけでなく、その大会も含めて伝えることが出来ていたんですね。

何か新しい選手なりイベントが出てきた時に、ユーザが一斉に調べ始める。と、ここでもやっぱり考えるのが、その過程でどんなページが引っ掛かってくるのか?実際には、アルバレスであっても我々からすれば、全然遅かった訳なんですが、“無知の強豪”(前編を参照)をどんどん出す意義を感じました」

松山「そもそも、ネットメディアは、そういうところに存在意義がありましたよね。制限が少なく、網を広くかけることができるという」

川頭「ニッチというか、新しい選手を発掘して、情報の土台を作っておくという。ただ、アルバレスの“カリスマ”は定着しませんでしたね(笑)」

高島「定着を狙ったネーミングをMMA PLANETは必要としないです。あくまでも入口として。あとは、雑誌を作る時、そしてテレビの人がそこを考えていけばいい。そういえばもう、大昔の話ですが、格闘技通信でブラジル通信というページを担当したときに、イゴール・ボフチャンチンを“北の最終兵器”という風に紹介して、そのフレーズは使われていたのに、僕はプロモーションから取材拒否を受けていた(笑)」

松山「うちも(戦極に出場したイ・グァンヒを)“韓国の火の玉ボーイ”ってやったら、見事に外しちゃいましたけど(笑)」

高島「僕らの仕事は、知ってもらうこと。外れたら、外れたことを認めてリポートすればいい。そうでないと、後出しじゃんけんの結果論ありき、上から目線の記事ばかりになってしまいます」

川頭「そうそう、bodogのレポートでホルヘ・マスヴィダルのことを“逸材”って書かれていましたよね」

高島「まあ、ホドリゴ・ダムにやられてしまいましたが(笑)。海外で活躍した選手を報じて、来日が決定する。ここで雑誌とネットでは役割分担ができる。来日外国人選手の“来日してから試合まで”は、実は月刊誌では“大会を盛り上げるという部分”で貢献できない。ただし、ここを本来は国内の大会を扱わないMMA PLANETとの協力で解決できれば――というのもありますね。と同時に、しっかりと雑誌でディテールを伝えて行くときの情報提供にもなりますし」

松山「本当にその通りですね。逆に雑誌では、ネットが掬い上げた事象をもっと掘り下げたい。今回、前田吉朗選手がミゲール・トーレスといい試合をして、前田選手を知らなかったサクラメントの観客達が立ち上がって拍手をした。そこで読者には、日本のその階級をもう一度立ち返ってみて、更に興味を持って貰いたいんです。

例えば、じゃあ前田選手とパンクラスで2度も死闘を繰り広げた志田幹選手はどんな選手だったのか、DEEPフェザー級トーナメントで前田選手と名勝負を繰り広げた今成正和選手は世界でどうなのか、って」

高島「バンタム級といえば、先日、ケージフォースを解説していて、嬉しくなりましたね。バンタム級なら、十分に日本は世界のトップに君臨できるって。バンタムは向こうも層は薄いけど“これはいける”って思いましたよ」

川頭「そうなんですよ。決して国内を飛ばしている訳ではないので、“国内を無視して海外に走っている”と言われてしまうのは誤解がありますよね。マイク・ブラウンっていう選手がいて、それに勝つ今成選手っていうのはどれだけ際立った選手なのか?ちゃんとその情報を国内に還元していこうと」

高島「例えば、これが三島選手でもマイク・ブラウンにフィジカルでは負けないんじゃないか?とか、更に進んでいかなければならないと思うのです。ところで、川頭さんはMMA PLANETでは、どういう風にゴン格との色を出していくのですか?」

川頭「例えば、腰を据えて読ませるモノというのは、個人的にスクロールで読む気はしないんですよ。だからこそ、先ほども話が挙がったように、ネットであれば、最大の特性でもある速報や不特定多数のユーザに対してフックとなる情報を与えるような流れを作ることですよね」

松山「オリンピックなどでは、基本的にメディアブースでテレビと紙とで記者を分けるんです。それは、(選手が)テレビとインタビューで喋るトーンが変わってきちゃうからなんです。カメラを向けられて時間制限のあるテレビ向けの発言と、記者にじっくり話しをするのは当然異なる。

今月号のミゲール・トーレスで言えば、高島さんとトーレスが大会後のエレベータホールで付きっきりで話をしている。それも“一問一答”ではなく、互いの考えをフェイストゥフェイスでぶつけあう。これは、テレビコンテンツとは絶対的に違う訳ですから、そういう部分を雑誌は伝えるべきだと思っています」

高島「雑誌のインタビューは、できれば試合後にしたい。繰り返しますが、試合直前のインタビューは、ネット向きだと思います」

松山「そうそう。多くの場合、雑誌では試合直前は間に合わない。あとは、試合前にどこまで話せるのかっていう問題もあります。聞き手の力量にもよりますが、いくらなんでも戦略を言う訳にはいかない。その緊張感の中でどんな見所を引き出せるか」

川頭「WECの大会前に、MMA PLANETでは高島さんにアップして頂いた、ジェンス・パルバーとユライア・フェイバーの試合直前インタビューが載りました。もちろん、メインカードで常時これを続けていくのは難しくもありますが、試合後に彼らのインタビューが雑誌に載るというような流れができれば尚いいですね」

高島「僕はインターネットが普及する以前に、格闘技通信で増刊号を作っていた。そこで、読者から送られてくるハガキで“○○選手のコメントがよかった”って書いてあることが多かったんですね。“コメントかい?”って落ち込むんですが、それがファンの知りたいことなんですよ。選手の生の声って本当に需用が高い」

川頭「試合前、試合後っていう切り口で役割を分けるのは、面白いかもしれませんね」

高島「試合前って“選手”なんですよね。でも、試合後は“人間”じゃないですか?」

松山「確かに。“ヒューマン”だからこそ、技術的なことも含め、その試合の瞬間、瞬間でどんな思いでどんな選択がなされていたのか、本質に迫る引き出しが必要なんですよね。あと、選手の生の声と併せて、写真も自由に載せられる。

雑誌は、掲載点数が限られますし、ポップアップで拡大もできない。それが編集の妙でもありますけど、大会でも載せられない場面や試合があるので、それをネットで補完できるのは大きい」

川頭「(高島氏の部屋を見渡して)それにしても、このパスは壮観ですね」

松山「UFCも昔からちゃんとパスを出していたんですね。写真入りパスもありますし」

高島「どうだろう?正直、自分の記者人生がこんなことになると思っていなかったので、最初の頃のパスは捨ててしまっていると思います。顔写真入りパスはMGMの大会ですね。もうUFCにはスポーツ紙まで記者を派遣している。なら、専門誌の人間の役割として、自分は違う場所を求めたくなる」

川頭「開拓していきたいということですか?」

高島「ただ、アフリクションに興味があるかって聞かれると、正直、分からないですね。やはり僕は日本人。日本人ファイターがそこで活躍できる土壌があるのか。それが、まず自分の視線の先にあると思います。まぁ、現地に行くからこそ意見できるという部分でEXCのCBS大会には行ったのですが、やはりリングの中自体にそれほど興味を持つことができない大会は、取材していても――。何にせよ、アフリクションなら自分が行かなくても他に伝えてくれるところが絶対にあるので、それで良いと思っています」

松山「そうですね。僕がMMA PLANETを見ていて感じる一番の強み、一番の説得力は、現場に記者がいること。現場の記者から情報を貰っていることだと思うんですね。全部は見えなくても、どこを切り取るか。ちゃんと人の目を介している。で、これは?(と、あるパスを指差す)」

高島「これは、MFCですね。イーブス・エドワーズと小谷(直之)選手がやった試合ですね。自分がUFCに頻繁に行くようになったのも、ライト級が始まってから。それ以外の大会も、やはりライト級、日本人が活躍できる基盤があると思っていたから。UFCに関して言うと、それ以上の素晴らしさを感じるようになり、従来のグレイシー・シンドロームにくるまれて、ベースにプロレスがある記事では、ちゃんと伝わらないっていうもどかしさは僕の原動力にもなりましたよね」

松山「ブラジルで行なわれていた頃のムンジアルも以前から取材をされていて、茶帯の頃のジャカレイやホジャーの試合も見ている。今ではカリフォルニアで開催されてアクセスも楽になって取材しやすくなったし、ネットにも試合結果が出るようにもなりましたね」

高島「そう。すると、自分の中では少し熱が冷める(笑)。ただ、身近になったからページ数が取れないのかというと、それは違うとおもうんです。よく“編集者が理解してくれないからページが取れない”って若い記者の子は言いますけど、そうじゃなくて、いかに編集者を説得してページを取るか。身近だろうが、辺境だろうが、“こいつに任せたらページが増えるんだ”って思ってもらえるよう、自分が頑張ればという気持ちで頑張ってほしいです」

松山「最初の読者である編集者を説得できなくて、どうやって読者を説得できるんだ、と」

高島「“これを表紙にしなかったら、他の原稿書かない”って、食いっぱぐれるようなことを言うのも、今となってはどうかと思うんですけど(笑)。そのぐらい必死になって、試合を見ていない編集部の人を説得する。そこがスタートだった。だから、川頭さんのようにIFLもWECもOKと即決してくれた人は、本当に稀です(笑)」

川頭「話も尽きませんが(笑)、この辺りで座談会を締めさせて頂きたいと思います。さて、今後、ゴング格闘技&MMA PLANETで、より海外を知ってもらうために、どのようなことを考えられているのか。そこをお伝えてして、この座談会をお開きにさせて頂こうかと思います」

高島「自分は、自分の目で見て、信頼している海外の知人の言葉を信じて、良いと思ったものを媒体を問わず、伝えていきたい。それしかないです。あと自分も年寄りなので、早くバトンタッチがしたい。若い子に、ものおじせず海外で取材をしてほしい。

伝えるのなら、雑誌のなか、PCの画面、YOUTUBEでなく、雰囲気を知ってほしい。読者と同じマテリアルのなかで格闘技を伝えても限界があります。格闘技をサッカーでなく(笑)、食事に例えると、割烹料理もピザも、居酒屋のつまみ、奥さんが作ってくれたご飯、いろいろなものがある。そこで本当の味って、高級料亭なのか、子供が笑っているダイニングなのか、騒々しいカウンター席なのか、その場の雰囲気と調和してこそ生まれるもの。美味しいご飯を伝えるのなら、食材や分量だけでなく、食す場を知る。雰囲気を大切にしてほしい」

松山「僕は、入り口としては、まずはテキスト速報でも動画でもいいから興味をもってもらうこと。そこにMMA PLANETのように現場を直に見た人間の目が介されている文章があれば、自分の見方との違いを感じることができる。そこから、雑誌メディアとしては、取材者の特権である選手本人や関係者に話しを聞くことが出来るし、ジムに足を運ぶことができる。そこで、実際にマットに上がるまで、そしてマット上で何が起きていたのか、選手がどんな思いで戦ってきたのかを伝えたい。それは、格闘技の奥深さとそれを知る楽しさの部分。アメリカのボールパークのフェンウェイにあるグリーンモンスター(※)じゃないけど、オクタゴンの大きさひとつをとっても団体によって異なるし、角がないケージもある。

それに、煽りVもシンプルだけど、ダナ・ホワイト代表や解説のジョー・ローガンが見どころをアツく語るビデオは、個人的にはウェット過ぎないアメリカで見ると心地良い作りだと感じる部分もあるし、大会の休息前に流される試合ハイライトは、これでもか、というくらいエモーショナルだったりする。その空気も伝えることで、読者が『一度、生で見に行こうか』と腰を上げてくれたら大成功。『久しぶりに後楽園ホールで格闘技を生観戦するか』でもいい。そしてついでにプロモーションにも『この選手、面白そうだから日本に呼んでみようか』と“無知の強豪”が招聘されたら日本のファンにも楽しんでもらえるかもしれない。どんなメディアも取捨選択がなされているし、そこに主張もある。あとは、自分の目で確かめてもらいたいですね」

川頭「私は、自分達で立ち上げたコンテンツですから、まずはMMA PLANETというブランドをしっかり構築していきたいと思っています。お陰様で、ゴング格闘技さんや、スポーツサイト最大手・スポーツナビさんとの提携も始まりました。これにより、livedoorユーザ、格闘技ファンのみならず、一般スポーツファンへの訴求も大幅に強みを増しました。

こうした動きをとることで、一人でも多くの人の目に留まるようになるのはもちろん、体制や予算なども含めた強化も可能となる。そうなれば、当然、もっと面白い取材やコンテンツ作りもできます。そして、今後も多くのアライアンスを組み、格闘技界のみならず、スポーツ界に食い込んでいきたいですね。とにかく知って貰わないことには始まらないし、最終的には、それが業界の底上げにもなる訳ですから」

※ボストン・レッドソックスのホーム球場フェンウェイ・パークにある特徴的なレフトフェンス

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