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【Special】月刊、青木真也のこの一番:1月─その壱─マクレガー✖セラーニ「飛び道具を使わない」

UF246【写真】青木をして強さ、存在感ともに別格というマクレガー。その立ち位置と、UFCが守っているモノとは (C) Zuffa UFC/Getty Images

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年1月の一番、第一弾は18日に行われたUFC246からコナー・マクレガー✖ドナルド・セラーニの一戦を語らおう。


──2020年も1カ月が過ぎました。1月度の青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合は?

「コナー・マクレガー✖ドナルド・セラーニでいきます」

──おお、ジェネラルファンが最も喜んだ試合ですね。

「ハイ。そして、僕は冷めていたんです(笑)。あまり乗れていなかった。ただ、あの試合を見ている数は桁違いに多い。そういう状況を見て、彼が注目されている現象が楽しかったですね。僕はマクレガーが出ていなくてもUFCを見ているし。マクレガーだから人が集まって見るっていうのは、面白いですよね。

MMAファイターでそれをできるもマクレガーだけで。そういう意味では凄いとは思ったけど、これで勝ったからヌルマゴメドフと再戦だとか、そういう盛り上がりはないですよね、正直。戦いの輪のなかに入っていくよりも……年に1回とか、2年に1回ビッグマッチだけ戦うような選手。いうても強いし、試合も面白い。そういうボクシングに見られる別格というのがマクレガーですよね。

でも世論と言うかファンは、ヌルマゴメドフとのリベンジっていう声を挙げている」

──UFCもタイトル戦という路線を望んでいるのか。と同時にタイトル戦線に関係ない選手の試合で盛り上がると、マクレガーが出ない大会はどうなるのかという見方をしてしまうのですよね。

「それは僕も高島さんもMMA好きだから。だから、別にこの試合に乗って来ないですよね」

──でも試合は凄いし、強い。

「たまに出てきて、ああやって締めることができる。桁違いなんだと思います。しかも笑っちゃったのが、肩パンチが話題になっていたけど、あれは僕の解釈だとボクシングの技術。クリンチの時にスペースを作って肩を入れて、あれをMMA独特という言い方をしていると『アレ?』って思ってしまった」

──MMA独特というのが、攻防やプロセスにあっても技術本体にあるのかなとは思います。寝技での打撃以外に。

「ですよね? 良かったぁ(笑)。ホッとしました。でも石井逸人なんてワンツーから肩パンチをスパーでやってきて。遠い距離で──ですよ(笑)」

──アハハハハ。良い話です。それだけ影響力があるのが、マクレガーなのですね。

「もう『お前、頭突きに気をつけろよ』って話で(笑)。それはボクシングだろうって一歩引いて眺めていると、ムエタイでも国際式とミックスしていて、首相撲でもダーティーボクシングというのか肩を入れて崩して、殴っている。だからスペースを作る技なんだよって。

と同時に、それをマクレガーは効かすことができた。もうセラーニが気圧されているんだけど、そこがマクレガーの強さです。しかもセラーニが最初から組みに行く。メイウェザーとボクシングで立ち会えるマクレガーは抜群なんでしょうね。

それと行けるって思ったときの詰め方です。あの嗅覚も異常です。焦らず、しっかりと打ち抜いている。亀になっても、刺していける。凄く冷静で、感覚が他の選手とは違うんだなと思いました」

──でも……。

「ハイ。ヌルマゴメドフともう1回見たいとは思わない」

──それにしても、もう億万長者も億万長者なわけですが、そこでキラーインスティンクトを持ち続けられるというのが、やはり普通とはかけ離れた感性の持ち主なのでしょうね。

「ただ、ピンチの時は『どうぞ、どうぞ』ってなるかもしれないですね。と同時に世界王者よりも有名で稼いでいるんだし、それで良いんですよね。最近のMMAはそういうボクシング的なことが増えましたし」

──各王座の統一戦っていうのも、では各々の防衛戦の価値はどうなるの?という感じのこともボクシングはやっていますね。

「ホント、MMAもそういう風にタイトル戦線のほかの話題でやっていくようになるのか。それをいうと昔、若林(太郎)さんがPRIDE無差別級の時に『これをやったら、次はねぇじゃん』って言っていて。そこに行きつつあります」

──ハイ。だからこそ日常を見るファンが増えないことには。

「飛び道具を使わない。麻薬を使わない。それをやっているのは、国内ではK-1です」

──新しいK-1のことはあまり分かっていないのですが、ライト層やジェネラルを狙っているなかでK-1としてあるべきモノということを貫いているような印象があります。

「守るべきモノを守っていますよね。超守っている。自分達のベルト、自分達の価値観を堅くなに守るし、他ジャンルを入れない。それは清々しいほどです」

──それを守ることは大変だと思います。

「そうですよね。そこで甘いモノがあっても、手に取らないわけだから」

──K-1はK-1、かつてはK-1のKはキック、空手、カンフー、拳法のKと言っていましたが、今やK-1のKはK-1のKです。

「そうそう、K-1なんです。そこでいえばマクレガーはメイウェザーとはボクシングをしても、UFCのなかではMMAだけを戦っている。UFCファイターと戦っている。そもそもUFCは、UFCを世界レベルで守っている。一般の人にMMAを見せて、しかも最高レベルの人が、一般に届くことをしている。そういう意味では、マクレガーは一種の異常者です。ただ、着地が見えないというのはあります。どこで着地して、どう終わらせるのか」

──良い人になっているのは、一つの方向性ではないでしょうか。

「セラーニのおばあちゃんとハグするとか。そうなったマクレガーが魅力的なのか……。でも、そっちの方が本質かもしれないですね。落としどころも、そこにあって。最後はチャンチャンで、アイルランドの父みたいな存在になるとかありえますね」

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